あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
実際に来てみると、胸のまんなかにあったのは、もっと静かで、もっと重いものだった。
会議室を出ると、六階の廊下で、電話が鳴り始めていた。
初めて来た日、一本も鳴っていなかった、あの静かなフロアで。
夜、千夏から電話が来た。
「ねえ! 会議、いたんでしょ!? なんで言ってくれないの!」
「言えるわけないでしょ、事前には」
「それはそうだけど! もう総務まで全部回ってきてるよ。藤堂常務がほぼ退任って。六階、夕方から電話パンクしてたって」
千夏は一気に喋って、それから、少しだけ声を落とした。
「……ファンドの人たち、途中から誰も常務のほう見てなかったって聞いた。ほんと?」
「……ほんと」
「そっか」
それから千夏は、噂の三人が応接に呼ばれていた話のところで、黙った。
「私さ、たぶん今まで、無意識のうちに噂広めちゃってたんだなって。悪気なかったって、言い訳になんないけど」
「千夏が謝ることじゃないよ」
「うん。……ありがと」
電話を切ってから、このみは会議室の篠宮を思い出していた。
篠宮は最後まで敬語で、最後まで平らな声だった。
怖い、と言う人もいるだろう。
でも、あの平らさの下で、あの人は怒っていた。
いつからか、それが分かるようになっていた。
(私のために怒ってくれたのかな……自分の経歴まで犠牲にしようとして……)
そこから先は、考えるのをやめた。
考えると、明日、顔を見られなくなる。