あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
篠宮が、ゆっくりと息を吐いた。
この人も、息を止めていたのだと、そのとき気づいた。
吐いてから、耳掛けの髪を一度だけ直す。
もともと、綺麗に整っているのに。
「月曜に、言えなかったことも、言わせてください」
このみは続けた。
月曜の会議室で、最後に呼び止めた声。
あのときは、ドアを閉める音で、聞こえなかったことにした。
「会社のため、って自分に言い聞かせて書きました。でも、本当は違います。……篠宮さんのために消えるんだって、心のどこかで思っていました。それを認めたくなくて、理由の欄には、一身上の都合としか書けませんでした」
息を整えて、続ける。
「宛先を正直に書けない封筒は、ただの逃げです。だから──取り下げてきます」
「お願いします」
篠宮は短く言って、それから、付け足した。
「窓口の名義も、来週あなたに戻します。──隣に、私がいる形で」
篠宮はそう言って、私の手を、大きな手で包んだ。
手のひらから、体温が伝わってくる。
会議室に誰かが入ってきたら、という気持ちと、ずっとこのままでいたい、という気持ちのあいだで、揺れた。
夕方、課長の席の横に立った。
課長はこのみの顔を見て、何も聞かずに、一番下の引き出しを開けた。