君を好きだと知った日-あの日、恋だと知らなかった――忘れた頃に、もう一度。

第3部 気になる理由を、探していた

いつからだったのかは、分からない。

彼とのDMが日常になってから、しばらく経った頃。

私は、ときどき自分でも不思議な行動をするようになっていた。

何となくスマートフォンを開いて。

彼のプロフィールを開いて。

DMを開く。

新しいメッセージがない。

それだけなら、別に何も思わない。

……はずだった。

けれど、指はなぜか過去の会話を遡っていく。

少し前のやり取り。

そのさらに前。

初めてDMをした頃まで戻ってしまうこともあった。

「……何してんだろ、私」

自分でも呆れてしまう。

別に、読み返すほど大した内容じゃない。

今日の出来事。

趣味の話。

韓国の話。

大学の話。

くだらない冗談。

そんなものばかり。

それなのに。

一度開いてしまうと、なかなか閉じられなかった。



彼から連絡が来ない日がある。

もちろん、毎日必ず彼から始まるわけではない。

だから、彼からDMが来ないこと自体は何もおかしくない。

分かっている。

分かっているのに。

「今日は来てないな」

そう思ってしまう。

そして、そう思った自分に気づくと、

「いや、別に待ってたわけじゃないし」

と心の中で言い訳する。

誰に説明しているのかも分からない。



そんなある日。

いつものように、過去のDMを眺めていた。

彼の返信を読み返しているうちに、ふと思った。

私。

この人のこと、結構知ってるな。

どんなことを勉強しているのか。

どういうときに忙しいのか。

趣味を楽しんでいるときのこと。

韓国での生活。

何気なく話してくれたこと。

一つ一つは小さな情報なのに。

積み重なると、少しだけ彼の輪郭が見えてくる。

そして。

その輪郭を知ることが、私はどうやら好きらしい。

「……好き?」

思わず、その言葉が頭に浮かんだ。

けれど。

すぐに打ち消した。

「いやいや」

違う。

そういう意味じゃない。



だって。

彼は、私の好みのタイプではない。

少なくとも、最初に写真を見たときはそう思った。

ものすごく顔が好みなわけでもない。

一目惚れしたわけでもない。

むしろ、

「まあ、普通にいい人そう」

くらいだった。

それなのに。

DMをするようになってから、妙に気になる。

でも、それはきっと。

話が合うから。

それだけ。

話していて楽しい人なら、気になるのは普通だ。

返信を待つことだってある。

仲のいい友達から連絡が来るのを楽しみにするのと、きっと同じ。

私はそう結論づけた。



それでも。

彼のプロフィールを開いてしまう。

新しい投稿がないか確認する。

ストーリーが上がっていたら見る。

たまに彼が何かに反応してくれると、少し嬉しい。

そんな自分に気づくたびに、

「……いや、でも」

と考える。

恋愛じゃない。

だって、私は彼のことを「かっこいいから好き」なわけじゃない。

むしろ。

写真を見るたびに、

「実際に会ったらもっと印象違うんかな」

なんて考えてしまうくらいだった。

――会ったら。

そこまで考えてから、私は少しだけ手を止めた。

まだ会ったこともないのに。

「……何考えてんだろ」

スマートフォンを伏せる。



そんな頃だった。

私は韓国へ行くことになった。

予定を確認しているうちに。

ふと、彼のことが頭に浮かんだ。

韓国に行く。

そして。

彼も韓国にいる。

当たり前のことなのに、急に現実味を帯びてくる。

今までは画面の中だけだった。

毎日のように話しているのに。

実際には、一度も会ったことがない。

「……会ったら、どんな感じなんだろ」

そんな考えが浮かんだ。

すぐに、また自分で笑った。

会ってみたい。

ただ、それだけ。

きっと。

DMでこんなに話しているんだから、実際に会っても楽しいだろう。

それくらいの気持ちだった。



やがて。

会う話が出た。

ほんの少しのやり取りで、予定が決まっていく。

画面の中でしか知らなかった人と。

本当に会う。

そう思うと、不思議な感じがした。

楽しみ。

……なのかな。

いや。

楽しみなんだろう。

でも、どうしてこんなにそわそわするのかは、自分でもよく分からない。

服を選ぶ。

髪を整える。

当日の予定を何度も確認する。

「別にデートじゃないんだから」

自分に言い聞かせる。

友達に会うだけ。

趣味の繋がりで知り合った人。

毎日DMしている人。

それだけ。

だから、そんなに気にする必要はない。

そう思っていた。



そして。

韓国へ向かう日が来た。

飛行機の中で、何度かスマートフォンを開いた。

DMを確認する。

彼との最後の会話を見る。

少しだけ笑う。

もうすぐ、画面の向こうの人が。

本当に目の前に現れる。

そう考えると。

胸の奥が、ほんの少しだけ騒がしくなった。

でも。

それが何なのかは、まだ分からなかった。

楽しみなのか。

緊張なのか。

それとも。

もっと別の何かなのか。

私はまだ、その感情に名前をつけるつもりなんてなかった。

ただ。

「早く会ってみたいな」

そう思った。

それだけだった。



そして、

私は彼の前に立っていた。

初めて見る、実物の彼。

写真より少し違って見えた。

思っていたより。

ずっと――

「……なんか、かっこいいじゃん」

心の中で、そう呟いた。

けれど。

それでもまだ。

私は自分が、この人に惹かれ始めていることを知らなかった。
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