キスから始まる恋は甘くて苦い
「永瀬はこれからバイトに行くって言ってましたよ」

 早々に話を切り上げたく、言いながらドアノブに手をかける。

「省吾」
「はい?」
 
 呼び止められて省吾は振り返った。

「ありがとな」

 蒼一は笑顔のままだった。ペコリと頭を下げて更衣室を出る。

「省吾じゃん。もう来てたん?」
「あれ、まだ着替えてねーの?」
「おまえらっ……ちょっと待て」

 ちょうど更衣室へ入ろうとしていた部員を見て、省吾はそのままふたりを道場の外へ連れ出した。
 あの作り笑顔はまだ怒っている証拠だ。少し頭を冷やしてもらわないと……怒りは6分で治まるということを聞いたことがある。

「まだ入っちゃダメなのかよ?」
「女の子連れ込んでたりして」
「誰がそんなことすんだよ」
「辰巳先輩とか?」

 考えを巡らせているとふたりが邪推(じゃすい)しだした。省吾が「そんなわけないだろ」と笑い飛ばす。彼らも冗談だよと返して笑い合った。

「でも機嫌悪そうだから、今日の稽古はたぶんキツイぞ」

 そして省吾は真顔になって呟いた。


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