選ばなかった人生

 避難所へ戻る途中、昔の朝を思い出した。
 娘が言った。

 「お母さん、今日学校行きたくない」

 あの日の私はため息をついた。面倒だと思った。

 「どうして?」

 もっと話を聞いてあげればよかった。
 もっと抱きしめればよかった。
 もっと夫に怒ればよかった。

 「あなたも父親なんだから、一緒にやってよ」

 そう言えばよかった。
 それだけだった。
 人生を捨てる必要なんてなかった。
 全部を完璧にする必要もなかった。
 ただ、

 「今日は無理」

 と言ってもよかった。
 誰かに頼ってもよかった。
 私はそんな簡単なことに気づけなかった。



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