選ばなかった人生
 
 夫は仕事が忙しい。
 それは分かっている。
 家族のために働いてくれていることも分かっている。
 子供たちを嫌っているわけでもない。
 休日には公園に連れて行ってくれるし、子供たちが欲しがっていたものを買ってくれることもある。
 だからこそ私は何も言えなくなる。
 けど日常の細かいことはほとんど私の仕事だった。
 
 学校の予定。
 提出物。
 予防接種。
 熱を出したときの病院。
 忘れ物。
 宿題。
 明日の持ち物。

 「明日の発表会お願いね」
 「発表会?」
 「何時か覚えてる?」
 「……明日だっけ?来週と勘違いしてた。明日は大事な会議が入ってて行けそうにない」
 「聞いてないけど」
 「悪い、言ってなかったっけ?」
 「もういいよ。私一人で行くから」
 
 そんなことが何度もあった。
 ある夜、私は夫に言った。
 
 「少しでいいから、子供のこと手伝ってくれない?」
 
 夫はテレビを見たまま答えた。
 
 「手伝うって言っても何すればいいの?」
 「……」
 「言ってくれればやるよ」
 その言葉に、私は笑った。
 「うん」

 でも心の中では、こう思っていた。
 言わなきゃやらないことに、もう疲れた。

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