選ばなかった人生

 胸が締めつけられた。
 本当か嘘かも分からない。
 この老人の戯言にしか聞こえない。

 それでも。
 心の奥から別の声がした。
 ――本当に自由になれるとしたら?
 私は長い間悩んだ。
 老人の言葉が頭から離れなかった。

 『覚悟が決まったならその封筒から紙を取り出し、紙に向かって強く祈りなさい』

 ……そんなことで?
 本当にそんなことができるのだろうか?

 そしてある夜。
 夫と些細なことで言い合いになった。
 話し合っても変わらぬ夫の態度に諦めの気持ちが押し寄せる。
 さすがに限界だった。

 子供たちが眠ったあと、二人の寝顔を見た。
 娘の髪をそっと撫でる。
 
 「ごめんね」

 何に対する謝罪なのか、自分でも分からなかった。
 私は静かに言った。

 「……お母さん、ちょっと疲れちゃった」

 そして翌朝、私は決めた。

 「やり直します」

 紙に向かって強く祈っていた。


 「もう一度人生をやり直したい」



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