選ばなかった人生

 その後は嘘のように順調だった。
 なにより体が軽い。フットワークも軽い。
 仕事も順調。独身を謳歌し、数年後には独立した。
 収入も増えた。
 好きな服を買った。
 旅行にも行った。
 好きな時間に起きた。
 好きな時間に眠った。
 誰にも振り回されない。

 「これが私の望んでいた人生だったんだ」
 
 そう思った。
 きっとあの老人は神様か何かで、あの頃頑張っていた私へのプレゼント。
 そう思うことでこの不思議な出来事にそっと蓋をした。

 
 そして、年月が過ぎていった。
 五十代になった。
 結婚はしなかった。
 もう一度したいとは思えず、一人でいる道を選んだ。
 私は大きな家に住むことができた。
 部屋もたくさんあるが、使う部屋は一つだけ。
 独り身には贅沢で広いマイルーム。それが今の私のステータス。
 
 ある夜、風邪をひいて高熱が出た。
 ベッドの中でスマホを握る。
 誰かに電話しようとして、やめた。
 友人たちは家庭を持っている。
 仕事仲間にこの時間に電話するわけにもいかない。
 結局私はスマホを枕元に置いた。


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