恋を知らない天才魔術師が、惚れ薬を作るまで
「お前は、わたしの名を覚えているのか?」
何を言ってるのだろう、この人は。
覚えてるも何も、つい最近、隣のジョシュアにユリウスのことを紹介したばかりではないか。
まぁ、いいやとイザベラはそのことを軽く流し、自信ありげに胸を張る。
「もちろんです!先生の名前は、...名前は...」
自信満々に声を張り上げたイザベラだったが段々と小さくなっていく。
何故だかわからないが、普段ずっと先生と敬称で呼んでいたせいか、突然右隣の男性の名前をど忘れしてしまった。
彼の曽祖父である偉大なる魔術師、カイアス・フローベルの名前はすぐ出て来た。
なのに、すぐ隣にいる彼の名前が不思議なことにまったく出てこないのだ。
左隣のジョシュアもまさかイザベラのほうが名前を言えないとは思っておらず、目を瞬かせている。
右隣から凄まじい圧を感じ取り、イザベラはどうにかして思い出そうと、必死に頭を回転させる。
「待ってください!!カイアス・フローベルが先生の曽祖父様ということと、家名がフローベルということまでは覚えてるんです!!」
「...それで、名は?」
イザベラはそこで口を噤む。
声から察するに、かなりご立腹の様子なのがわかる。
「本当に、本当にさっきまで覚えていたんです!!なんとかフローベル、グロリ、は違う!!えっと、えっと、えっと...!!」
急に頭から消えてなくなったように思い出せず、焦りまくっていると右隣の男性の手がイザベラの頬に迫りくる気配を感じた。
いつもなら抵抗する姿勢を取るイザベラだったが、今回は完全に自分の落ち度なので、泣く泣くその手でつねられるであろう頬を差し出したのであった。