通りすがりの俺様
 


「いずるーっ」

 そろそろ総務に戻るか、と渡り廊下に行こうとしたとき、佐保子が駆けてきた。

「さっきは気を利かせてくれてありがとーっ」

「いや、馬に蹴られて死ぬのは嫌なんで」
と笑うと、佐保子も笑い、

「まあ、いてくれて、なにか私の良い話をしてくれてもよかったんだけどねっ」
と言ってくる。

「なに、私の良い話って……」
とつい言って、

「……いや、思いついてよ」
と言われてしまう。

 そのあと、たいしたこともしていないのに、自動販売機でココアをおごられた。

 これはこれからも協力せよと言うことかな、と思いながら外廊下で飲んでいると、
「矢端さんって、ミステリアスな人よねー」
と佐保子は語り出す。

 ……やばい。
 長くなりそうだ。

 しかも、向こうから、女子社員は仕事中もずっと喋っていると決めつけている企画部の部長がやってくる。

 特に総務は目の(かたき)にされていた。

 仕事で社内を回っているのに、遊んでいると思われているのだ。

「つづきはっ、つづきはメッセージでお願いしますっ」
とまだまだ素敵な矢端さんの話をしている佐保子に言う。

「もうっ。
 長文送りつけるわよっ」
と語り足りないらしい佐保子に叫ばれながら、

 ココアありがとーっ、と急いでその場を去った。



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