通りすがりの俺様
「え? それ、俺じゃないよ。
俺は紙は補充するよ。
知ってるだろ?
便所の神様に怒られるから」
今日も家に来た兄にトイレットペーパーの件をあらためて確認すると、そう言う。
そういえば、おばあちゃんがいつも言ってるもんね、
と思いながら、いづるは言った。
「昨日は、お兄ちゃんだと思ってたから確かめなかったんだけど……。
えっ?
じゃあ、誰かが家に入って、トイレ使ったってこと?」
「お父さんたちじゃないのか?」
だといいんだけど、といずるは、ちょっと不安になる。
「侵入した奴がトイレ使ったけど、紙がなくなり。
取り替えたらバレると思って、替えなかったのかな?」
「替えなくてもバレるだろ。
替えてもバレるけど」
単に面倒くさがりの犯人なんじゃないのか?
と兄は言う。
「それにしても、お兄ちゃん、最近よく来るね」
「お前が心配だからに決まってるだろ」
すると、全然ここに来ない親は私のことが心配ではないのだろうか。
まあ、ここまでの事態になっていることをまず知らないか、と思う。
心配させるのも悪いし、わざわざ言う必要もない。
「なにか盗まれてるものないか、確認してみるね」
「そうだな。
……土地の権利書とか」
「……おにいちゃん、ほんとうに私の心配をして来てくれてる?」
当たり前じゃないか、と兄は嘘くさい微笑みを浮かべる。
まあ、この人の微笑みは子どものころからずっと嘘くさいのだが。
「この子はこの顔で苦労するだろう――」
とおばあちゃんに予言されるほどに。