通りすがりの俺様
「でも、果実のなる木がある庭って、いいですよね」

 ワインを呑みながら、ライムの木を眺めていたいずるは、一鷹が沈黙していることに気がついた。

 振り返ると、こちらを見ている。

 ちょっとドキリとするような顔で――。

 思わず、視線をそらすと、
「今、俺にときめいたろ」
と一鷹が言ってくる。

「……ときめいてません。
 ただ、最初のときと表情違うなって」

「あのときはお前に声かけるのに、緊張してたからだ」

 そうは見えませんでしたがっ!?

 一鷹が自分を見つめて言う。

「ずいぶん距離が近づいた気がしてるのは俺だけか?」

 え……

 えーと……。

「……早く、秀たち戻ってこないかなと思ってたが、もうちょっと遅くてもいいな」

 ……えーと。

 今すぐ帰ってきてくださいっ、秀さんたちっ、
と思ってしまう。

 じりじり一鷹が近づいてくるので、いずるは、じりじりライムの木に追い詰められる。

 誰かっ、助けてっ。

 中庭をロの字型に囲む廊下のひとつに灯りがついていてた。

 兄が歩いているのが見える。

 兄っ。
 いたのかっ。

 助けてっ、兄っ、となんとなく思ったが、兄は嬉しそうに電話をしながら歩いている。

 ラブラブ電話っ。
 無理っ。
< 239 / 307 >

この作品をシェア

pagetop