通りすがりの俺様
「逃げなくてもなにもしないぞ」
「じゃあ、なんで近づいてくるんです」

「……お前の近くに行きたいだけだ。
 近くに行って……

 じっとしてる」

 相変わらず、不思議なことを言う、と思ったが、一鷹は近くまで来たものの、ほんとうに、じっとしていた。

「緊張するな……」
と一鷹は俯いて言う。

 じゃあ、離れてくださいっ。
 なんか息苦しくなってきたんでっ、といずるは思っていた。

「あと、ちょっと悔しいな」

 え? と一鷹を見上げる。

「俺ばっかりお前にドキドキしてないか?
 帰ってきてお前を見ると、緊張するし。

 お前にお帰りなさいとか言われると舞い上がるし。

 ……なんかずるくないか?」

 い、いやいや、そんな……。

 私だって、水内さんのことを考えると、緊張しますし、動揺もしますよ。

 そう思ったとき、何故か、頭にトイレットペーパーが降ってきたときの映像が浮かぶ。

 なんでだろうな、と思ったとき、一鷹が振り返り言った。

「なんで、黙って見てるんだっ」

 いつの間にか、矢端たちが帰ってきていたようだった。

 リビングの窓際から酒を呑みながら、こちらを眺めている。

「いや、これからどうなるのかなと思って」
と秀が笑って言った。




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