通りすがりの俺様
「とりあえず、お兄さんの彼女は怪しいよ」
と秀が小器用にじゃがいもをむきながら言う。

 あっ、また、そんなこと言ってっ、と兄が反論したとき、
「誰だったの?」
と矢端が訊いてきた。

「うちの会社の人?」

 さすが矢端さん、鋭いな、といずるは思う。

「だから、解放してもらったんじゃない?」

「待て待て待て、俺にも推理させろ」
と一鷹が割り込んでくる。

「誰だろうな。
 満? 網代木? 小野寺か」

 適当に次々言ってますよね……。

 そして、犯人を外しています。

 そこで、唐突に秀がむかれた野菜を見ながら言った。

「これ全部鍋に入れて、急いで、早くっ」

「鍋に入れると、犯人がわかるのか?」
と一鷹が言い出す。

「違うよ、煮詰まるからだよ。
 部屋にホワイトボードがあるの、思い出した。

 持ってくるから、みんな犯人当て、待っててっ」

 ドラマのように、犯人の名前とか相関図とか書き出したいらしい。

 急いで部屋に戻っていった秀だったが、そのまま戻っては来なかった。

 おでんの鍋だけが、ぐつぐつに煮え続ける。

 


< 264 / 307 >

この作品をシェア

pagetop