通りすがりの俺様
 いずるは一鷹の手にあるカレンダーの、桜や菜の花のふわふわした感じのイラストを眺めながら、

「暦の上ではもう春なんですね」
とちょっと笑って言った。

 一鷹はいずるにカレンダーを渡さずにページをめくり、
「この辺は暦の上ではもう結婚しているぞ」
とこちらに向かって突き出し、言う。

 燦々と笑顔な太陽と白いヨットを、

 そうか。
 この頃にはもう結婚しているのか。

 そう思うと感慨深いな……。

 いやいや。
 なに流されてってるんだ、と思いながら眺めていると一鷹が、

「……それで」
と言った。

「はい」
と見上げたが、一鷹は視線をそらす。

「……うん、おかしいな。
 あのとき、ポンとお前の肩を叩いたみたいに、ポンと抱き寄せたり、ポンとキスしたりしようと思うのに、できない」

 結界があるのだろうか、と一鷹は呟いた。

 ……まだ、さっきのラスボスの話を引きずっているのだろうか。

「それとも、俺はお前への愛をずっと訴えているが、お前からはなにも返ってこないからだろうか?」

 などと言い出す。

 自分がお世話になっているのに、なにも恩返ししない人間のように思えてきて、なにか言わねばと、ない愛(?)を絞り出してみた。

「そ、そうですね。

 あの……今思えば……

 水内さんに肩叩かれたとき、払いたくはならなかったなって」

 ちょっと照れながら言ってみたのだが、一鷹は、

「……そこで払いのける想定があったのか」
と青くなる。

 いや、例えばですよ、例えばっ。

 だが、そこで、また次に言うべきことを思いついた。

「そういえば、水内さんのせいで、トイレットペーパー落としましたし」

 いや、何処からトイレットペーパー出てきた、という顔を一鷹がする。
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