通りすがりの俺様
「あれっ?
 意外に次々思い浮かびます。

 水内さんへの愛」

「……いや、トイレットペーパーが気になって、なにも頭に入ってこないんだが」
と一鷹には言われてしまったが。

 いずるは珍しく、自分の気持ちに向き合っていた。

「そういえば、水内さんに言われて、素直に引っ越してきましたし。

 私――

 もしかして、水内さんのこと、好きなんですかね?」

 いずる……と見つめてきた一鷹に、

「お前のその言葉、じっくり聞きたいから、さっきのトイレットペーパーの件、ハッキリしてくれ」
と手を握られて言われる。

 いずるは照れながら言った。

「実は、以前、あなたのことを考えながら、棚からトイレットペーパーをとろうとしたら手が滑って、一個丸ごとトイレの中に落ちたんです」

「……その出来事、俺と関係があるか?」

「たぶん……あなたのせいで私がちょっと、浮かれてたから」

 そう言うと、不可解そうだった一鷹の表情が、一転、笑顔になる。

 両手で強くいずるの手を握ってきた。

「このままお前と結婚できたら、きっと俺は一生、その話を思い出すな。
 たぶん、それが初めてお前が俺を意識してくれた瞬間だから――」

 もっと違う話をしたほうがよかったな……といずるは後悔していたが。

 一鷹は、
「うん、なんか弾みがついたぞ」
と言い出す。

 えっ? と顔を上げたとき、一鷹がそっとキスしてきた。

 弾みがついたとかいうわりには、ほんとうにそっと。
 触れたか触れないかわからないくらいに。

 本当にこの人はよくわからないな、といずるは思う。

 強引にグイグイ来たかと思いきや、急に腰が引けて。
 照れたように遠慮がちになってみたり。

 まるで、シャッと攻撃をしかけておいて、物陰にピュッと隠れて様子を窺っている猫のようだ。

 そう思って、ちょっと笑ってしまった。

 すると、一鷹が上機嫌に言い出す。
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