通りすがりの俺様
  


 その日の夜遅く、誰かがいずるの部屋の扉を叩いた。

 いずるは迷って、
「山」
と言う。

 少しの間の後、
「……サル」
と返ってきた。

 いずるが扉を開けると、
「……正解だったのか」
と自分で言っておいて驚いたように一鷹は言う。

 いや、声を聞いて開けただけですよ。

 あと、そんな不思議な答えを返してくるのは、水内さんだけだからです。

「次に部屋に来たときは、キス以上のことをしていいんだったな」

 いいとは言ってませんよ……。

「それにしても、最初の部屋にいるなんてトラップだ。
 一周してしまって、矢端や秀の部屋も開けて、危うくキスされるところだったじゃないか」

 あとお兄さんの部屋も開けて、ラブラブなところを見てしまった、と一鷹は言う。

 まあ、あのナイフを出してきた人以外は、こちらが訴えなかったので、罪にはならなかったからな。

 一鷹の母親や例のホテルの衣装部の若松笙子(わかまつ しょうこ)が、
「あのホストたちは私たちが店に通って、これ以上悪いことしないよう見張っといてあげるわ。
 そしたら、あの男たちを使ってた人間もわかるはずだしね」
とノリノリで言っていたので、あとのことは任せて大丈夫だろう。

 ……そんなことより、といずるは思う。

 あの、今日、最初の部屋にいたのは、裏をかこうと思ってじゃないですよ。

 わかりやすいかと思ったからですよ。

 逆効果だったようだが……。

 わかりやすい部屋にいることで、自分の気持ちを表そうとしたのだが、上手く伝わらなかったようだ。

 ここはやはり、口に出して言うべきなんだ、といずるは覚悟を決めた。

「……水内さんが自分が土地目当てで近づいたと言ったとき、嘘なんだろうとは思ったんですけど。

 やっぱり、ちょっとどきりとしてしまいました。

 それでわかったんです。

 私――」
とようやく決心をかためて言おうとしたいずるの言葉を一鷹は止める。

 いずるの唇に手を押し当てて。

 なんだろう。
 私からの告白なんて聞きたくないとかっ?

 やはり、これは詐欺っ?
と思ったが、一鷹は赤くなって言ってきた。
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