スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 あの日から、二週間が過ぎた。
 今のところ、あの日早乙女くんに危惧されたような事態には陥っていない。というのも、鷲見様のコンシェルジュという仕事が、あまりにもあっさりしていたからだ。

 お出かけ時のお見送り、お出迎えはホテルクラークとしては当たり前のことだし、特別頼まれたことといえば、会食のレストランの予約と送り迎えのタクシーのセッティング、クリーニングの引き取りと部屋への設置くらいだ。清掃のチェックにも何度か入ったことがあるが、特別鷲見様からなにか指摘や不便を伝えられたかというと、そんなことはない。

 こんなで、彼のコンシェルジュなどと名乗っていいのだろうか。そう思いながら、いつものようにフロントへ出る。

「おはようございます、鷲見様」

 夜勤だった川西さんが、今朝もフロントにやってきた鷲見様にそう言って丁寧に頭を下げていた。
 彼は毎朝決まって、爽やかな笑顔と完璧なスーツ姿でフロントに現れる。立ちふるまいだけで美しさのある彼は、そこにいるだけで華がある。

「清掃、よろしく」

 鷲見様がそう言って、フロントのトレーにカードキーを置く。

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

 川西さんは朗らかな笑みを浮かべて、再び丁寧に頭を下げていた。

「行ってきます」

 鷲見様は川西さんに笑みを向ける。と、彼は彼女の後方にいた私にも気づいてにこっと微笑む。

「行ってらっしゃいませ」

 私も丁寧に頭を下げると、彼はフロントに背を向けた。

「鷲見様、今日も素敵でしたね」

 川西さんが私の隣にやってきて、うっとりとしたため息をこぼしながら小声で言う。
 私は回転扉の向こうでタクシーに乗り込む彼を目で追いながら、「そうね」と小声で同意した。

 今、バックヤードは今までにないほど色めきだっている。鷲見様はフロントに現れる時はもちろん、館内を歩いている時も、館内施設を利用される時も、どのスタッフにも礼儀正しく優しいらしい。
 だからか、整った顔立ちや優しい微笑だけでなく、美しい一挙手一投足が王子様のように優雅だともっぱらの話題だ。

 確かに、スマートでかっこいいと思う。あんなお客様、私はいまだかつて出会ったことがない。

「リアルスパダリ……」

 もごもごともらす川西さんの声に、私は心の内で頷いた。スパダリとは本来、ああいう人のことをいうのだろう。

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