スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
小野様は嫌そうな顔をしながらも、手にしていたチェックイン用のタブレット端末に必要情報を記入しはじめる。私はその様子を見て、背後にいた森さんに、小さく声をかけた。
「森さん、他のお客様のチェックイン処理をお願い」
「はい」
森さんがそう言ってフロントに戻ろうとした時、彼女の前を大きな影が横切った。
影はフロントへ真っ直ぐ向かい、そのままカウンターをドンッと強く叩く。
「おかしいだろう! 樫江を出せ!」
ロビー内に、男性の太く低い怒りの声が響き渡る。あの大きな背中は、間違いない。当ホテルに宿泊中の、穴山様だ。
先ほど、チェックイン時に何度も難癖をつけては客室を変えさせ、今はレジデンシャルスイートのひとつ下のランクであるアンバサダースイートに追加料金なしで宿泊されている。
あの時、対応したのは私だ。お部屋にもご納得いただけたようだったから、まさかもう一度彼がフロントまでやってくるとは思わなかった。
早乙女くんがさっとにこやかに対応に入ったのが見えて、私は目の前のお客様が第一だと脳を切り替える。
「小野様、こちらのご記入はお済みのようですので、只今処理を――」
「おい、樫江ってお前だよな」
小野様が不機嫌そうに、私を睨んだ。
「はい、樫江は私でございます」
「なんだよ。さっきはお前がベテランスタッフみたいなことを言ったから、俺は納得したんだ。なのに、クレームつけられるような女だったとは。お前、俺を騙したな!」
小野様が急に立ち上がり、大きな声で怒鳴る。
「とんでもございません。お客様を騙すようなことは決して――」
なるべく丁寧に、冷静に、笑みを浮かべて下手に出る。だがその時、背後から穴山様の大きな声が聞こえてきた。
「樫江! そこにいたなら返事をしろよ。俺に気づかなかったわけじゃないだろう!」
振り向くと、鬼の形相をした穴山様が大股でこちらに歩いてくる。その後ろで、早乙女くんが必死に穴山様を止めようとしているのが見えた。
私は慌てて穴山様に向き直り、低く頭を下げる。
「大変失礼をいたしました。我がホテルのフロントクラークは優秀ですので、別の者でも穴山様のご要望に添ったご提案をさせていただけるかと」
「俺は樫江を出せと言ったんだ!」
怒鳴る穴山様の隣から、小野様の舌打ちの音が聞こえる。
どちらから対応すべき? 私は今、どうすべき?
ふたりの顧客から鋭い視線を受けながら、私は必死に頭を巡らせた。
「森さん、他のお客様のチェックイン処理をお願い」
「はい」
森さんがそう言ってフロントに戻ろうとした時、彼女の前を大きな影が横切った。
影はフロントへ真っ直ぐ向かい、そのままカウンターをドンッと強く叩く。
「おかしいだろう! 樫江を出せ!」
ロビー内に、男性の太く低い怒りの声が響き渡る。あの大きな背中は、間違いない。当ホテルに宿泊中の、穴山様だ。
先ほど、チェックイン時に何度も難癖をつけては客室を変えさせ、今はレジデンシャルスイートのひとつ下のランクであるアンバサダースイートに追加料金なしで宿泊されている。
あの時、対応したのは私だ。お部屋にもご納得いただけたようだったから、まさかもう一度彼がフロントまでやってくるとは思わなかった。
早乙女くんがさっとにこやかに対応に入ったのが見えて、私は目の前のお客様が第一だと脳を切り替える。
「小野様、こちらのご記入はお済みのようですので、只今処理を――」
「おい、樫江ってお前だよな」
小野様が不機嫌そうに、私を睨んだ。
「はい、樫江は私でございます」
「なんだよ。さっきはお前がベテランスタッフみたいなことを言ったから、俺は納得したんだ。なのに、クレームつけられるような女だったとは。お前、俺を騙したな!」
小野様が急に立ち上がり、大きな声で怒鳴る。
「とんでもございません。お客様を騙すようなことは決して――」
なるべく丁寧に、冷静に、笑みを浮かべて下手に出る。だがその時、背後から穴山様の大きな声が聞こえてきた。
「樫江! そこにいたなら返事をしろよ。俺に気づかなかったわけじゃないだろう!」
振り向くと、鬼の形相をした穴山様が大股でこちらに歩いてくる。その後ろで、早乙女くんが必死に穴山様を止めようとしているのが見えた。
私は慌てて穴山様に向き直り、低く頭を下げる。
「大変失礼をいたしました。我がホテルのフロントクラークは優秀ですので、別の者でも穴山様のご要望に添ったご提案をさせていただけるかと」
「俺は樫江を出せと言ったんだ!」
怒鳴る穴山様の隣から、小野様の舌打ちの音が聞こえる。
どちらから対応すべき? 私は今、どうすべき?
ふたりの顧客から鋭い視線を受けながら、私は必死に頭を巡らせた。