スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「穴山様は、私が対応すべきだと思います」

 獅子内様のほうを向き、口を開いた。
 穴山様が再びお怒りになった時、新たな担当ではいちから説明しかねない。それで穴山様の気分を害してしまってはいけない。
 だからこそ、私が自ら担当を名乗り出たのだ。

「一か月、このホテルに滞在して君たちの動き方を大体把握した。彼なら、穴山様の対応くらい難なくできると思うよ」

 彼は優しい笑みを浮かべたまま、そう言った。

 前回宿泊された際、穴山様はかなりお怒りだった。だから彼はきっと、私を守ろうとしてくれているのだろう。
 だけどそれで病んでしまうほど、私は弱くない。むしろ、私が対応したいとすら思う。

 だが、彼の気持ちを無下にするのも違うと思う。それに、ここで言い合いをしても仕方ない。
 だから私は笑顔をつくり、彼に向けた。

「かしこまりました。でしたら、私は後方で早乙女くんのサポートを――」

 だが獅子内様は、その先を遮るように私の肩に手を置いた。

「すまない。君には別件で、話があって」

 はっと顔を上げる。これは、彼の優しさか、私の早とちりか、どちらだろう。

「事務棟の二階、第一会議室に、一緒に来てくれるかな?」

 彼のその言葉で、優しさか早とちりかなんていう疑問は、一瞬で消え去った。

 事務棟二階の第一会議室。そこは、オリオンレジデンスホテル東京の重役やオリオングループの役員が集まって、会議をする場所だ。私のような平社員が、滅多に立ち入れる場所ではない。
 つい笑顔を引きつらせていると、獅子内様は王子様の微笑を浮かべて言った。

「安心して。フロント課長には伝えてあるから」

 獅子内様が私たちに背を向け、先にオフィスを出ていこうとする。どうやら、本当に私の早とちりだったようだ。

「樫江さん、行ってらっしゃいませ」

 川西さんがそう言って、私の背中を軽く叩く。彼女はなぜか、嬉しそうな笑みを浮かべている。
 私は穴山様から頂戴した意見をまとめたファイルの場所を彼女に示し、早乙女くんに伝えてと慌てて言う。

「ごめん、フロントよろしく」

 私は川西さんにそう言うと、バックオフィスの入口で待っていてくれた獅子内様を追いかけた。

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