スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
青い絨毯の敷かれた事務棟二階は、ホテルの裏側なのに表と変わらない荘厳さを感じるフロアだ。私も数回しか足を踏み入れたことがないそこに、まさかこのホテルの経営元であるオリオングループの御曹司に連れられてやってくるとは思いもしなかった。
なにを言われるのだろうか。緊張で高鳴る胸を抑えつつ、ホテルマンとして背を正し丁寧に歩く。
獅子内様が第一会議室の扉を開いた。ここから先は、私も未知の領域だ。
「どうぞ」
促され、「失礼します」と中に足を踏み入れる。部屋の中央には、円形のテーブルにいくつかの黒い革製の椅子が並べられていた。部屋の奥にある広い窓には、客室と同じ重厚なカーテンがかけられている。
中にいたスタッフが、部屋の隅でカップにコーヒーを淹れている。ついそちらに行きたくなるが、獅子内様は手前の椅子を引いて「どうぞ」と私を促した。
会釈し、腰をかける。獅子内様が私とひとつ椅子を挟んで座ると、スタッフが淹れたてのコーヒーを私と彼の前に、それぞれひとつずつ置く。
「あ、ありがとうございます」
まさか、自分がこちら側になるとは。慣れない心地にそわそわしていると、スタッフは一礼して会議室から出ていった。
「それで、お話というのはなんでしょう?」
できるだけ手短に要件を聞こうとそう言うと、獅子内様は王子の微笑のままさっそく口を開いた。
「君も知っていると思うけれど、我がオリオングループは新しい宿泊体験施設として、『オリオン・グラン・ヴィラ』を建設している。君に、そこでのクオリティ・マネージャーを頼みたいと思っているんだ。明日から本社に出勤して、一緒にオリオン・グラン・ヴィラの企画運営を手伝ってくれないかな」
「はい?」
つい、聞き返した。
オリオン・グラン・ヴィラは獅子内様の言う通り、オリオングループの新しい宿泊体験施設として、【より優雅に、より豪華な休日を】というコンセプトのもと建設が進められている、ヴィラタイプの宿泊施設だ。第一弾は箱根、オープンは来春。まだまだ先だが、そんなことを頼まれるなんて思ってもみなかった。
「どうして、私なのでしょうか?」
すると、彼はくすりと笑った。
「この一か月間、俺は宿泊客としてホテル内スタッフの動きを見てきた。君はホテルクラークとして、とても優秀だ。新規オープン予定の施設には、顧客はそれ相応の期待を持ってやってくる。君の動きなら、それに十二分に応えられると考えた」
「でも、私よりも優秀な先輩が何人も――」
「俺が君をプライベートコンシェルジュに指名したのは、なんでだと思う?」
私の言葉を遮って、獅子内様が聞いてくる。
「それは……」
口ごもってしまうと、彼は再びくすりと笑った。
「人はピンチの時にこそ、その本領を発揮する。初めて君を見たのは、お客様が倒れた現場だった。君はその時、誰よりもてきぱきと動いていたと思うけれど」
その言葉に、違和感を覚える。私はホテルスタッフとして、あるべき行動をしただけだ。
なにを言われるのだろうか。緊張で高鳴る胸を抑えつつ、ホテルマンとして背を正し丁寧に歩く。
獅子内様が第一会議室の扉を開いた。ここから先は、私も未知の領域だ。
「どうぞ」
促され、「失礼します」と中に足を踏み入れる。部屋の中央には、円形のテーブルにいくつかの黒い革製の椅子が並べられていた。部屋の奥にある広い窓には、客室と同じ重厚なカーテンがかけられている。
中にいたスタッフが、部屋の隅でカップにコーヒーを淹れている。ついそちらに行きたくなるが、獅子内様は手前の椅子を引いて「どうぞ」と私を促した。
会釈し、腰をかける。獅子内様が私とひとつ椅子を挟んで座ると、スタッフが淹れたてのコーヒーを私と彼の前に、それぞれひとつずつ置く。
「あ、ありがとうございます」
まさか、自分がこちら側になるとは。慣れない心地にそわそわしていると、スタッフは一礼して会議室から出ていった。
「それで、お話というのはなんでしょう?」
できるだけ手短に要件を聞こうとそう言うと、獅子内様は王子の微笑のままさっそく口を開いた。
「君も知っていると思うけれど、我がオリオングループは新しい宿泊体験施設として、『オリオン・グラン・ヴィラ』を建設している。君に、そこでのクオリティ・マネージャーを頼みたいと思っているんだ。明日から本社に出勤して、一緒にオリオン・グラン・ヴィラの企画運営を手伝ってくれないかな」
「はい?」
つい、聞き返した。
オリオン・グラン・ヴィラは獅子内様の言う通り、オリオングループの新しい宿泊体験施設として、【より優雅に、より豪華な休日を】というコンセプトのもと建設が進められている、ヴィラタイプの宿泊施設だ。第一弾は箱根、オープンは来春。まだまだ先だが、そんなことを頼まれるなんて思ってもみなかった。
「どうして、私なのでしょうか?」
すると、彼はくすりと笑った。
「この一か月間、俺は宿泊客としてホテル内スタッフの動きを見てきた。君はホテルクラークとして、とても優秀だ。新規オープン予定の施設には、顧客はそれ相応の期待を持ってやってくる。君の動きなら、それに十二分に応えられると考えた」
「でも、私よりも優秀な先輩が何人も――」
「俺が君をプライベートコンシェルジュに指名したのは、なんでだと思う?」
私の言葉を遮って、獅子内様が聞いてくる。
「それは……」
口ごもってしまうと、彼は再びくすりと笑った。
「人はピンチの時にこそ、その本領を発揮する。初めて君を見たのは、お客様が倒れた現場だった。君はその時、誰よりもてきぱきと動いていたと思うけれど」
その言葉に、違和感を覚える。私はホテルスタッフとして、あるべき行動をしただけだ。