スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 嫌な予感に胸がぞわぞわと騒ぎだすのを感じていると、道の向こうからこちらへ堂々と歩いてくる男性が、ふたり見えた。

 北斗さんの手が、私の背にそっと触れる。顔を上げると、北斗さんが珍しく困惑した様子で、私に微笑んだ。

「俺の父と、兄だ」

 小声でそう言われ、胸がどくどくと激しく打ちだした。

「北斗、大切な人を紹介したいと聞いていたが……そうか、やっと結婚する気になったのか」

 そう言ったのは、年配の男性だ。ただならぬオーラを感じるが、どことなく北斗さんに似ている。きっと、こちらが北斗さんのお父様だ。

「北斗、おめでとう。これでお前も、事業部長に一歩近づいたな」

 若いほうの男性がそう言った。彼は北斗さんにそっくりだが、少しだけ吊り上がった目元が異なっている。彼がお兄さんだろう。
 つまり、今私の目の前にいるふたりは、オリオングループの会長と大川電鉄の社長ということ。

 私は慌てて、ふたりに頭を下げた。

「初めまして、樫江琴子と申します」

 できるだけ丁寧に、礼儀正しく。だけど、心臓はバクバクと高鳴っていた。

 御曹司の言動を止め、『このままで大丈夫』だなんて、私はなんてことを口走ってしまったのだろう。
 背中に北斗さんからの視線を感じる。もう、後には引けないだろう。

「琴子さん、顔を上げて」

 会長に促され、そっと顔を上げる。ホテルマンとして生きてきたから、咄嗟のことに動じていないフリなら得意だ。私はふたりに、笑顔を向けて見せた。

「気品があって、素晴らしい女性だな」
「ありがとう、父さん、兄さん。彼女はおもてなしの精神と対応力も素晴らしいんだ。ヴィラのクオリティ・マネージャーもお願いしている」

 北斗さんは話を合わせるように、そう言う。

 するとお兄さんが「なるほど」と、顎に手を当て言った。その仕草は、北斗さんのものとそっくりだ。

「似た者同士ってことか」

 彼がそう言った時にはもう、宴会場は先ほどまでの空気に戻っていた。会長は誰かに呼ばれ、どこかへ行ってしまう。お兄さんも、急な電話で席を外された。

 それから私たちは挨拶のたびに相手から祝辞を受けることになり、私はそのたびに咄嗟に口から飛び出てしまったあの言葉を悔いていた。

 あの時は、それが最善だと思った。だけどまさか、こんなに波及することになるなんて。

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