スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 やがてパーティーがお開きになり、私は北斗さんとともにサロンへと戻った。
 ここへ着てきたスーツはクリーニングされ紙袋に入れられており、差し出されたそれを北斗さんが受け取る。するとサロンのスタッフが、私たちににこやかに告げた。

「またのご利用をお待ちしております」

 てっきりレンタルドレスだと思っていた私は、きょとんとしてしまう。だが北斗さんは「ありがとう、また」とスタッフに告げ、再び私の腰の辺りに手を置いた。
 そのままサロンを出た彼に、私は慌てて小声で尋ねた。

「ドレス、ヒール、アクセサリー合わせておいくらでしょうか? あ、給料天引きでも――」
「お代はいらないよ。今日の、特別報酬」

 耳元で告げられ、思わず体を震わせる。だが、私はすぐに小さく頭を振った。

「そういうわけにはいきません」
「受け取ってくれ。今日は君に、助けられてしまったしね」

 北斗さんは笑みを浮かべたまま、力なく笑う。それが苦笑いのように見えて、私はそれ以上は押し黙った。

 そのまま彼について歩き、気づくと来た時と同じ地下駐車場にいた。北斗さんは歩みを止めることなく、駐車場内へと向かう。

「北斗さん、私は電車で帰りますので」

 そう言ったものの、北斗さんは首を静かに横に振った。

「家まで送るよ。琴子さんに、話したいこともあるし」

 きっと、婚約の件についてだ。気まずい気持ちになり、つい俯く。すると彼は、からりと笑って私に告げた。

「先ほどのシャンパン。俺、一滴も飲んでいないから」

 彼らしい、優しい言葉だ。それに婚約の件も、先延ばしにしたらなくなるわけでもない。

「ありがとうございます」

 私はそっと告げ、彼にエスコートされるまま歩き続けた。

 彼の車は、高級感漂う黒色のセダンだった。「どうぞ」と助手席を開けて促され、そこに乗り込む。
 しっとりとしたなめらかな本革のシートに、艶を抑えたオープンポアのダッシュボード。足元やパネルにはほのかな間接照明が灯っている。

 さすが、高級車だ。気品あふれる車内の様子に、私は思わず背を正した。
 いつの間にか運転席に乗り込んでいた彼が、ハンドルを握る。

「シートベルトだけ、お願い」

 その声に慌ててシートベルトをかけると、車は静かに駐車場を発進した。

< 28 / 105 >

この作品をシェア

pagetop