スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 やがて窓外の景色が、都心のビル群から下町のぎゅっと詰まったような街並みへと変わる。道幅も徐々に狭くなり、彼のセダンが道行く人たちの視線を集めている。

「ここの角を、右です」

 私の言葉で、北斗さんがハンドルを切る。すると目の前にある駐車場に、伯父が樫江精機の作業着姿で立っているのが見えた。私たちを待っていてくれたのだろう。
 私は先に車を降ろしてもらい、伯父のもとへ。

「琴子ちゃん、お帰りなさい。なんだか立派な車だなあ」

 高らかに笑う伯父がいつもと変わりなくて、私はほっと安堵する。

「車、手前でいい?」
「ああ」

 短い会話の後、運転席の窓を開けてくれた北斗さんに駐車場所を示した。

 そういえば、北斗さんが駐車しているところは見たことがない。そう思ったが、彼は思った通り切り返しすることもなく、華麗に白線内に車を止めた。

「初めまして、獅子内北斗と申します」

 車を降りた北斗さんが、伯父に頭を下げる。

「堅苦しいのは苦手なんだ。外は寒いから、とにかく中へどうぞ」

 朗らかに笑う伯父の言葉に、私は北斗さんとともに会社内へと入った。

 今日も工場は稼働中。そんな中、伯父は笑顔で私たちを応接室へと促してくれた。そこに入ると、伯父が自ら温かいお茶を淹れてくれる。

「莉緒ちゃんはいないの?」
「ああ。莉緒は今日、ちょっと外に出ていてな」

 伯父は少し困り顔をしてそう言いながら、テーブルにお茶をふたつ並べて置いてくれる。

「こんなところで申し訳ないけれど。どうぞ、お座りになってください」

 伯父の言葉に、私たちはソファに並んで座った。
 伯父も、私たちの前に腰かける。するとさっそく、北斗さんが口を開いた。

「お忙しいところ、お時間をつくっていただきありがとうございます。改めまして、私、樫江琴子さんとお付き合いをさせていただいております、獅子内北斗と申します」

 穏やかな微笑を浮かべて、北斗さんが伯父に名刺を差し出す。
 その流れるような動作に、伯父は圧倒されたように目を見開く。だがすぐにはっとして、彼の名刺を受け取った。それから、作業着の内ポケットから自分の名刺を慌てて取り出す。

「どうも、琴子の伯父の佐宗大輔(だいすけ)と申します」

 伯父のへこへこした様子は初めて見るが、顔には優しい笑みが浮かんでいる。伯父はそれから、手元の名刺を見て告げた。

「オリオングループってことは、あの大川電鉄の。そこのアミューズメント事業部にお勤めだなんて、そりゃ忙しいでしょうに、わざわざ挨拶に来てくださって、律儀な方だ」

 伯父がそう言って、北斗さんに笑みを向ける。

「それでね、伯父さん。私、彼と結婚――」
「琴子ちゃんの選んだ人だ。それに見ていれば、北斗くんが悪い人じゃないっていうのは十分わかる」

 最後まで言う前に伯父が言い、私に満面の笑みを向ける。

「琴子ちゃん、幸せになるんだよ。琴子ちゃんのお母さんもお父さんも、私の妻も、きっと天国で琴子ちゃんを祝福しているよ」
「伯父さん……」

 優しい笑顔に、熱いものがこみ上げる。だけど同時に、罪悪感が胸を襲った。

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