スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 彼と婚姻届を提出してから、三日が過ぎた。今日、私は彼の家に引っ越す。

 仕事終わりに少しずつ小物はまとめていたし、もともと持っているものもそんなに多くない。それに引っ越し先はマンションの最上階で、3LDKという間取り。とりあえずの生活に不要なものは、ひと部屋を物置代わりに使えばいいだろうということになっている。

 引っ越し業者に荷物を頼み、すぐに家を出る準備をした。
 就職してからずっと住んでいた、1Kの部屋。ちょっと寂しいけれど、今日でお別れだ。

 電車に乗り、彼の待つ部屋へ。業者はすでに到着していて、中にいた北斗さんが対応してくれていた。もう、荷物はほとんど中に運び終わっている。

「北斗さん、対応いただきありがとうございました」

 引っ越し業者が去ってゆき、私は玄関で北斗さんに頭を下げた。
 ひとつ、彼に借りができてしまった。だが、北斗さんはなんてことない様子で「夫婦だから」と笑う。

「服は寝室のクローゼットに、それから生活に必要そうなものが入った段ボールも寝室に運んであるよ。それ以外の家具家電は、とりあえずもうひとつの部屋に。必要なものがあったら、適宜出してもらっていいかな?」
「はい。なにからなにまで、ありがとうございます」

 頭を下げたものの、ふと思う。

「服も小物も、寝室に?」

 言いながら、顔を上げた。

 以前彼とここを訪れた時、部屋の中にひと通りの家具が揃えられていて驚いた。
 寝室にもクイーンサイズのベッドが一台とバニティがあって、ふたりで苦笑いを浮かべたのを覚えている。北斗さんは『兄さんの仕業だ、すまない』と私に謝ってもいた。

 それなのに、寝室に荷物を?

 疑問に思っていると、彼が口を開く。

「ああ。あのベッドは琴子さんが使って。俺は隣の部屋に、別でベッドを置いたんだ。そこで寝るから、問題ないよ」

 北斗さんはなんでもない様子でそう言って、私を寝室に案内する。

「ここが今日から、琴子さんの部屋」

 他の部屋より、ひと回り広いベッドルーム。奥には小さなシャワールームまでついており、この部屋はどう考えても主が寝る場所だと思う。
 だが、中にはいくつかのダンボール。開け放されたクローゼットには、私の服や鞄がすでに並んでいる。

 どうやら、また先を越されていたようだ。

「本当に、ありがとうございます」

 同居初日にして、借りふたつ目。私は内心肩を落としながらも、彼に頭を下げた。
 すると今度は、コーヒーの香りが鼻に届く。

「そろそろできたみたいだ。おいで」

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