スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 あれから、三日が過ぎた。今日は、北斗さんの現場視察当日だ。
 彼の態度は、あの日以降も変わらない。だから私も、彼とフェアでいることを心がけて生活するに徹している。

 今朝、私は書き込みを終えた図面を彼に手渡し、ホテルに出勤した。今日はホテルクラークとしての勤務だ。彼は今頃、車で箱根に向かっているだろう。
 制服に着替え、いつものようにバックオフィスへ。パソコンで宿泊者名簿を確認し、フロントにてロビーを眺める。

 今日はなんだか、冷えている。予報では、関東の北のほうは雪だ。東京は雨も降っていないけれど、北斗さんは大丈夫だろうか。
 そんなことを考えつつ業務をこなし、午後になる。

 ランチから戻ると、バックオフィスがばたついていた。

「樫江さん、今夜、東京も雪予報に変わったみたいです」

 川西さんが私に気づき、教えてくれる。十二月初旬に東京で雪なんて、珍しい。

「わかった、ありがとう。滑り込みで宿泊されるお客様が増えるかもしれないから、先にフロント出ているね」

 そう言って、急いで今後の天気予報を頭に叩き込み、フロントへ。案の定、雪予報で宿泊したいと問い合わせが増え、ばたばたしつつ仕事を終えた。

 着替えてスマホを確認すると、北斗さんからメッセージが届いていた。芦ノ湖周辺が路面凍結で足止めされているらしく、今夜は箱根に泊まるという。

【わかりました。安全第一で帰ってきてください】

 そうメッセージを送り、私はホテルを出た。

 いつもなら、このままスーパーへ寄って買い物をして帰宅する。だけど、今日は帰っても誰もいない。
 ふと、寂しさが胸をよぎる。私はなんとなく真っ直ぐ帰りたくなくて、久しぶりにバー88へと向かった。

 大通りを入った場所にある、石造りの建物。今日もそこにひっそりと佇むバー88の小さな看板には、明かりが灯っていた。私はその、真鍮の扉をそっと開ける。
 ドアベルがかわいらしくチリンと鳴り、マスターがこちらを振り向いた。

「おや、琴子ちゃんいらっしゃい。久しぶりだね」
「ご無沙汰しています」

 すぐにこちらに優しい笑みを浮かべてくれたマスターに、私はぺこりと頭を下げる。

「今夜は雪みたいだね。寒くて誰も来ないから、琴子ちゃんが来てくれてよかったよ。どうぞ」

 そう言われ、いつものカウンター席へ。手袋とマフラーを外し、コートを脱ぐ。と、いつものように目の前にティフィンミルクが置かれた。
 さっそくカップに口をつける。今日は外が寒い分、その温かさが心に沁みる。

「あったかい……」

 そうこぼすと、マスターがふと私の手元を見て言った。

「琴子ちゃん、それ……婚約でも、したの?」

 どうやら、私の左薬指を見たらしい。

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