スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「あー、はは。実は先日、結婚しまして」
言いながら、頭の中に北斗さんの姿が浮かぶ。
「おめでとう」
マスターは、くしゃりと顔に皺を寄せた。私は「ありがとうございます」と笑顔で返したが、マスターは眉を八の字にした。
私を心配するような表情。マスターに、私のつくり笑いは通用しないようだ。
私はティフィンミルクをもうひと口飲む。その温かさと優しいお酒の香りに、ついぽろりと言葉をこぼす。
「実は、結婚したんですけど……なかなかうまくいかなくて」
「と、いうと?」
「至れり尽くせりなんですよね。だからお返ししたいのに、私はなにも返せていないんです。申し訳ないなあって」
ため息がこぼれた。いつもフェアにしようと思うのに、北斗さんは私にフェアで返してくる。だから、いつまでたってもフェアにできない。
「そのままの琴子ちゃんだって十分素敵なんだから、気負わなくていいんじゃない?」
マスターの言葉に、私はゆっくりと首を横に振った。
「それだと、私が甘えているみたいじゃないですか」
「甘えたっていいでしょう、夫婦なんだから」
私の言葉に、マスターが苦笑いを浮かべて言う。
だが、私は視線を落とした。私と彼は、偽装の関係。だからこそ、フェアでいたいと思うのだ。
しかし、彼にそんなことを言えるわけがなない。黙っていると、マスターが続けた。
「尽くしてくれた分をちゃんとお返ししたいっていう気持ちはわかるし、とても素敵なことだと思う。だけど琴子ちゃんが悩むほど、相手はそんなにしてほしいとは思っていないかもしれないよ」
「だけど、それでは私が納得できません」
つい顔を上げ、反論する。彼との関係が偽装であるからこそ、彼の優しさに絆されてしまうのが怖い。私たちは愛し合っているわけでも、好き合っているわけでもないのだから。
そんな私に、マスターはくすくす笑った。
「琴子ちゃんは人に甘えるのが苦手だからね。でも、もっと素直に受け入れたっていいと思うよ。琴子ちゃんは、それで気が済まないかもしれないけれど」
もし普通の結婚ならば、それでいいと思う。だけど、北斗さんが提示したのは、フェアな関係だ。
つまりそれは、やはり、このままではいけないということ。
「明日からも、また頑張ります」
ティフィンミルクを飲み干し、そう言う。
「ヒマラヤ登山には、絶対に装備も必要だよ」
マスターがまた、ヒマラヤに私を登らせようとしている。
わけがわからず今日もきょとんとしてしまったが、マスターは「ほどほどにね」と私に告げる。彼のその顔には、困ったような笑みが浮かんでいた。
バーからの帰路、ちらちらと降る小雪に頭を冷やしてもらいながら、私は考える。
スパダリの彼には敵わない。だから、私なりにできることでお返ししたい――。
彼が一番私を信頼してくれている部分。それは、クオリティ・マネージャーとしての仕事だ。
私は帰宅するとすぐ、リビングのテーブルにヴィラの資料を広げた。もう一度、彼が見てきてくれると言った部分を振り返っておこうと思ったのだ。
よし、と自分に気合を入れて、自分ならどう動くだろうと、ペンを手に頭を巡らせる。
これが私が、北斗さんとフェアになるために、お返しできること。私はその晩、ひとり資料とにらめっこを続けた。
言いながら、頭の中に北斗さんの姿が浮かぶ。
「おめでとう」
マスターは、くしゃりと顔に皺を寄せた。私は「ありがとうございます」と笑顔で返したが、マスターは眉を八の字にした。
私を心配するような表情。マスターに、私のつくり笑いは通用しないようだ。
私はティフィンミルクをもうひと口飲む。その温かさと優しいお酒の香りに、ついぽろりと言葉をこぼす。
「実は、結婚したんですけど……なかなかうまくいかなくて」
「と、いうと?」
「至れり尽くせりなんですよね。だからお返ししたいのに、私はなにも返せていないんです。申し訳ないなあって」
ため息がこぼれた。いつもフェアにしようと思うのに、北斗さんは私にフェアで返してくる。だから、いつまでたってもフェアにできない。
「そのままの琴子ちゃんだって十分素敵なんだから、気負わなくていいんじゃない?」
マスターの言葉に、私はゆっくりと首を横に振った。
「それだと、私が甘えているみたいじゃないですか」
「甘えたっていいでしょう、夫婦なんだから」
私の言葉に、マスターが苦笑いを浮かべて言う。
だが、私は視線を落とした。私と彼は、偽装の関係。だからこそ、フェアでいたいと思うのだ。
しかし、彼にそんなことを言えるわけがなない。黙っていると、マスターが続けた。
「尽くしてくれた分をちゃんとお返ししたいっていう気持ちはわかるし、とても素敵なことだと思う。だけど琴子ちゃんが悩むほど、相手はそんなにしてほしいとは思っていないかもしれないよ」
「だけど、それでは私が納得できません」
つい顔を上げ、反論する。彼との関係が偽装であるからこそ、彼の優しさに絆されてしまうのが怖い。私たちは愛し合っているわけでも、好き合っているわけでもないのだから。
そんな私に、マスターはくすくす笑った。
「琴子ちゃんは人に甘えるのが苦手だからね。でも、もっと素直に受け入れたっていいと思うよ。琴子ちゃんは、それで気が済まないかもしれないけれど」
もし普通の結婚ならば、それでいいと思う。だけど、北斗さんが提示したのは、フェアな関係だ。
つまりそれは、やはり、このままではいけないということ。
「明日からも、また頑張ります」
ティフィンミルクを飲み干し、そう言う。
「ヒマラヤ登山には、絶対に装備も必要だよ」
マスターがまた、ヒマラヤに私を登らせようとしている。
わけがわからず今日もきょとんとしてしまったが、マスターは「ほどほどにね」と私に告げる。彼のその顔には、困ったような笑みが浮かんでいた。
バーからの帰路、ちらちらと降る小雪に頭を冷やしてもらいながら、私は考える。
スパダリの彼には敵わない。だから、私なりにできることでお返ししたい――。
彼が一番私を信頼してくれている部分。それは、クオリティ・マネージャーとしての仕事だ。
私は帰宅するとすぐ、リビングのテーブルにヴィラの資料を広げた。もう一度、彼が見てきてくれると言った部分を振り返っておこうと思ったのだ。
よし、と自分に気合を入れて、自分ならどう動くだろうと、ペンを手に頭を巡らせる。
これが私が、北斗さんとフェアになるために、お返しできること。私はその晩、ひとり資料とにらめっこを続けた。