スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
今日もいつも通りに仕事を終える。昨日とは打って変わって天候に恵まれ、比較的ロビーも落ち着いていた。――と、思うのだけれど。
「樫江さん、今日ため息多かったな」
ホテルの従業員出入口を出たところで、後ろからやってきた早乙女くんにそう声をかけられた。今日、彼も私と同じく日勤だったのだ。
思わぬ指摘に、内心焦る。
確かに、今朝のことで少し落ち込んでいた。偽装結婚だから北斗さんとフェアでいようと改めて思ったのに、昨夜から今朝にかけては、完全に空回りをしていた。しかもそれで、北斗さんに余計な気遣いをさせてしまった。
だが仕事中はホテルマンとして完璧な笑みをつくり、いつも通りにしていたつもりだ。
「……ホテルマン、失格ね」
ぽろりとこぼすと、早乙女くんは慌てて首を横に振る。
「いや、表ではそんなことまったくなかった。バックオフィスで、たまについてたくらい」
だが、そんな自分が許せない。
「それでも、だよ。私のせいで裏の空気が悪くなったら、表まで影響が出るじゃない」
「それは大丈夫、多分俺しか気づいてないから」
早乙女くんは、ちょっとだけ不服そうに言う。だがその後、急に真剣な顔をした。
「なあ、ずっと思ってたんだけど。樫江さん、本当にあの人のこと、好きで結婚したのか?」
思わぬ指摘に、胸がどくりと嫌な音を立てる。だが、北斗さんとの結婚が偽装だということを、彼にバレるわけにはいかない。私は努めて冷静に、彼に聞いた。
「どうして、そんなふうに思うの?」
「樫江さんがあの人との関係を深められたのは、たった一か月。しかも、ホテルの従業員と客として。樫江さんがあの人に助けられていた場面があったのも、俺は見ていた。だけど」
早乙女くんはそこまで早口言うと、ふと歩みを止める。と思ったら、私の前に立ちはだかった。
彼と目が合う。彼の目は不機嫌そうにつり上げられていて、怒っているようだ。
だけど私には、早乙女くんが怒る理由がわからない。なにも言えずに彼をじっと見ていると、彼はそのまま続けた。
「あんな短期間で、樫江さんがあの人に惚れるとは俺には思えない」
「どうして、そんなことわかるの?」
内心冷汗をかきながら、努めて冷静に聞く。すると、彼はじっと私を見て告げた。
「わかるよ。俺、ずっと樫江さんを見ていたんだから」
真剣な顔でそんなことを告げられるとは思っておらず、今度は胸がどきりと跳ねた。返す反応が咄嗟に思い浮かばず、そのまま二、三度まばたきをする。
すると早乙女くんは、今度は大きなため息をこぼした。それが寒空の中、白く濁る。やがて消えたと思ったら、彼が真剣な顔のまま口を開く。
「俺、ずっと樫江さんのことを――」
「ごめん」
彼の強い口調を、同じく強い口調で遮った。早乙女くんははっと目を見開き、言葉を止める。それをいいことに、私は続けて口を開く。
「早乙女くんがそれ以上伝えてくれても、私は早乙女くんの気持ちには応えられない」
早乙女くんの言葉を予想して、私は先んじてそう言った。
私は既婚者だ。そこに、愛はないけれど。
そう思ったら、頭の中に北斗さんの顔が浮かんだ。すると、胸になにかが重くのしかかるようにズキンと痛む。
そんな痛みをごまかしたくて、私はフロントに立つ時と同じ笑みを、早乙女くんに向けた。この顔なら、得意だ。
「強い言い方をして、ごめん。でも、私は既婚者だから」
すると、早乙女くんはどこか申し訳なさそうな顔をして、「ごめん」と呟く。
気まずい。こんなことは初めてだから、どうやってこの空気を挽回させればいいのかわらかない。
どうしようかと必死に考えていると、こちらに走ってくる足音がした。
「樫江さん、今日ため息多かったな」
ホテルの従業員出入口を出たところで、後ろからやってきた早乙女くんにそう声をかけられた。今日、彼も私と同じく日勤だったのだ。
思わぬ指摘に、内心焦る。
確かに、今朝のことで少し落ち込んでいた。偽装結婚だから北斗さんとフェアでいようと改めて思ったのに、昨夜から今朝にかけては、完全に空回りをしていた。しかもそれで、北斗さんに余計な気遣いをさせてしまった。
だが仕事中はホテルマンとして完璧な笑みをつくり、いつも通りにしていたつもりだ。
「……ホテルマン、失格ね」
ぽろりとこぼすと、早乙女くんは慌てて首を横に振る。
「いや、表ではそんなことまったくなかった。バックオフィスで、たまについてたくらい」
だが、そんな自分が許せない。
「それでも、だよ。私のせいで裏の空気が悪くなったら、表まで影響が出るじゃない」
「それは大丈夫、多分俺しか気づいてないから」
早乙女くんは、ちょっとだけ不服そうに言う。だがその後、急に真剣な顔をした。
「なあ、ずっと思ってたんだけど。樫江さん、本当にあの人のこと、好きで結婚したのか?」
思わぬ指摘に、胸がどくりと嫌な音を立てる。だが、北斗さんとの結婚が偽装だということを、彼にバレるわけにはいかない。私は努めて冷静に、彼に聞いた。
「どうして、そんなふうに思うの?」
「樫江さんがあの人との関係を深められたのは、たった一か月。しかも、ホテルの従業員と客として。樫江さんがあの人に助けられていた場面があったのも、俺は見ていた。だけど」
早乙女くんはそこまで早口言うと、ふと歩みを止める。と思ったら、私の前に立ちはだかった。
彼と目が合う。彼の目は不機嫌そうにつり上げられていて、怒っているようだ。
だけど私には、早乙女くんが怒る理由がわからない。なにも言えずに彼をじっと見ていると、彼はそのまま続けた。
「あんな短期間で、樫江さんがあの人に惚れるとは俺には思えない」
「どうして、そんなことわかるの?」
内心冷汗をかきながら、努めて冷静に聞く。すると、彼はじっと私を見て告げた。
「わかるよ。俺、ずっと樫江さんを見ていたんだから」
真剣な顔でそんなことを告げられるとは思っておらず、今度は胸がどきりと跳ねた。返す反応が咄嗟に思い浮かばず、そのまま二、三度まばたきをする。
すると早乙女くんは、今度は大きなため息をこぼした。それが寒空の中、白く濁る。やがて消えたと思ったら、彼が真剣な顔のまま口を開く。
「俺、ずっと樫江さんのことを――」
「ごめん」
彼の強い口調を、同じく強い口調で遮った。早乙女くんははっと目を見開き、言葉を止める。それをいいことに、私は続けて口を開く。
「早乙女くんがそれ以上伝えてくれても、私は早乙女くんの気持ちには応えられない」
早乙女くんの言葉を予想して、私は先んじてそう言った。
私は既婚者だ。そこに、愛はないけれど。
そう思ったら、頭の中に北斗さんの顔が浮かんだ。すると、胸になにかが重くのしかかるようにズキンと痛む。
そんな痛みをごまかしたくて、私はフロントに立つ時と同じ笑みを、早乙女くんに向けた。この顔なら、得意だ。
「強い言い方をして、ごめん。でも、私は既婚者だから」
すると、早乙女くんはどこか申し訳なさそうな顔をして、「ごめん」と呟く。
気まずい。こんなことは初めてだから、どうやってこの空気を挽回させればいいのかわらかない。
どうしようかと必死に考えていると、こちらに走ってくる足音がした。