スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
スタッフがワゴンを運び、私たちの前にシャンパングラスをセットしてくれる。その後、支配人は自らシャンパンを注いでくれた。
「それでは、ごゆっくりお寛ぎください」
支配人とスタッフが去っていき、北斗さんとふたりきりになる。それでやっと、少しだけ肩の力を抜くことができた。
「琴子、乾杯」
北斗さんはそう言って、慣れた様子でグラスを掲げる。だが私はグラスを掲げる前に、彼に尋ねた。
「あの、先ほどの支配人がおっしゃっていた『新婚旅行』というのは、視察だと怪しまれないようにという、北斗さんの建前ですよね?」
すると彼はくすりと笑った。
「ああ、もちろんそれもある。俺たちは夫婦になったばかりだからな。だがこのところ、互いに仕事ばかりでゆっくりもできなかっただろう。俺は視察と言ったけれど、極上の体験をすることは仕事でもあるし、休暇でもあると俺は思うよ」
なるほど、つまり私は〝視察〟という彼の言葉にまんまと嵌められて、チェアマンスイートに連れてこられた。しかもその中に幾分仕事としての体験が含まれるのだから、〝視察〟というのは嘘でもない、ということらしい。
『そんなにかしこまらないで。楽しむだけでも、十分収穫はあると思うよ』
部屋に入った時の彼の言葉も、そういうことだったのかと納得する。だけど――。
「私、まだまだクオリティ・マネージャーとしての仕事をまっとうできているとは思いません。だから、こんなご褒美みたいな休暇をいただくなんて」
事実、クオリティ・マネージャーとして挑んだ最初の仕事であるマニュアル修正は終了したものの、その承認はまだであるし、それにこの後はヴィラのスタッフ教育だってある。
だが、北斗さんは余裕の笑みを浮かべた。
「成果がないと休暇をもらえないなんて、そんなブラック企業じゃあるまいし。俺はただ、互いに忙しい中でリフレッシュできたらと思っただけだよ」
「そういうことではない」と続けようと思ったが、なにを言っても彼には負けてしまいそうだ。
それに今、北斗さんはもう一度、私にグラスを掲げて見せている。この話を追求することで乾杯を先延ばしにするのは、失礼だろう。
私は気持ちを切り替えて、シャンパングラスに手を伸ばした。それを掲げ、「乾杯」と再び告げる彼に微笑む。それからそっと、パチパチと静かに音を立てるシャンパンに口をつけた。
爽やかでフルーティーな味。なのに、鼻に抜けるのはやたらと香ばしいまろやかなコクの香り。きめ細かい泡は舌の上でしゅわっと消えて、優しく喉を下りてゆく。
こんなに極上のシャンパンは初めてかもしれない。その美味しさに、私は思わず北斗さんを振り向いた。
彼は窓の外を眺めながら、なんてことない様子でシャンパンを口に運んでいる。その様子に私は言葉をしまいこみ、彼をじっと見つめた。
長い腕を折り曲げ、優雅にシャンパングラスを傾ける彼。物思いにふけるような顔が、気品ある色香を放っている。
改めて、かっこいい人だ。
どこか物憂げな彼の姿に見惚れていると、彼が不意にこちらを振り向いた。目が合い、体がぴくんと震える。
「俺の顔に、なにかついていた?」
北斗さんが、おかしそうに笑う。
「いえ、あの、すみません」
慌てて視線を逸らしたが、途端に鼓動は速くなり、顔が熱くなる。こういうのは、慣れていない。
急いでシャンパンを喉に流し込む。その冷たさが、気持ちの昂ぶりと顔の火照りを冷ましてくれた。
なにをドキドキしているのだろう。私は自分を咎めつつ、北斗さんにバレないように小さく深呼吸した。
それから、再び彼に向き合う。彼はいつものように、優しい笑顔をこちらに向けていた。
「少し休憩をしたら、夕飯を食べに出ようか。この階のラウンジが、使えるはずだから」
いちいち、そわそわするなんておかしい。私と彼は、偽装の関係だ。
私は自分に言い聞かせ、「はい」と彼に笑みを向けた。
「それでは、ごゆっくりお寛ぎください」
支配人とスタッフが去っていき、北斗さんとふたりきりになる。それでやっと、少しだけ肩の力を抜くことができた。
「琴子、乾杯」
北斗さんはそう言って、慣れた様子でグラスを掲げる。だが私はグラスを掲げる前に、彼に尋ねた。
「あの、先ほどの支配人がおっしゃっていた『新婚旅行』というのは、視察だと怪しまれないようにという、北斗さんの建前ですよね?」
すると彼はくすりと笑った。
「ああ、もちろんそれもある。俺たちは夫婦になったばかりだからな。だがこのところ、互いに仕事ばかりでゆっくりもできなかっただろう。俺は視察と言ったけれど、極上の体験をすることは仕事でもあるし、休暇でもあると俺は思うよ」
なるほど、つまり私は〝視察〟という彼の言葉にまんまと嵌められて、チェアマンスイートに連れてこられた。しかもその中に幾分仕事としての体験が含まれるのだから、〝視察〟というのは嘘でもない、ということらしい。
『そんなにかしこまらないで。楽しむだけでも、十分収穫はあると思うよ』
部屋に入った時の彼の言葉も、そういうことだったのかと納得する。だけど――。
「私、まだまだクオリティ・マネージャーとしての仕事をまっとうできているとは思いません。だから、こんなご褒美みたいな休暇をいただくなんて」
事実、クオリティ・マネージャーとして挑んだ最初の仕事であるマニュアル修正は終了したものの、その承認はまだであるし、それにこの後はヴィラのスタッフ教育だってある。
だが、北斗さんは余裕の笑みを浮かべた。
「成果がないと休暇をもらえないなんて、そんなブラック企業じゃあるまいし。俺はただ、互いに忙しい中でリフレッシュできたらと思っただけだよ」
「そういうことではない」と続けようと思ったが、なにを言っても彼には負けてしまいそうだ。
それに今、北斗さんはもう一度、私にグラスを掲げて見せている。この話を追求することで乾杯を先延ばしにするのは、失礼だろう。
私は気持ちを切り替えて、シャンパングラスに手を伸ばした。それを掲げ、「乾杯」と再び告げる彼に微笑む。それからそっと、パチパチと静かに音を立てるシャンパンに口をつけた。
爽やかでフルーティーな味。なのに、鼻に抜けるのはやたらと香ばしいまろやかなコクの香り。きめ細かい泡は舌の上でしゅわっと消えて、優しく喉を下りてゆく。
こんなに極上のシャンパンは初めてかもしれない。その美味しさに、私は思わず北斗さんを振り向いた。
彼は窓の外を眺めながら、なんてことない様子でシャンパンを口に運んでいる。その様子に私は言葉をしまいこみ、彼をじっと見つめた。
長い腕を折り曲げ、優雅にシャンパングラスを傾ける彼。物思いにふけるような顔が、気品ある色香を放っている。
改めて、かっこいい人だ。
どこか物憂げな彼の姿に見惚れていると、彼が不意にこちらを振り向いた。目が合い、体がぴくんと震える。
「俺の顔に、なにかついていた?」
北斗さんが、おかしそうに笑う。
「いえ、あの、すみません」
慌てて視線を逸らしたが、途端に鼓動は速くなり、顔が熱くなる。こういうのは、慣れていない。
急いでシャンパンを喉に流し込む。その冷たさが、気持ちの昂ぶりと顔の火照りを冷ましてくれた。
なにをドキドキしているのだろう。私は自分を咎めつつ、北斗さんにバレないように小さく深呼吸した。
それから、再び彼に向き合う。彼はいつものように、優しい笑顔をこちらに向けていた。
「少し休憩をしたら、夕飯を食べに出ようか。この階のラウンジが、使えるはずだから」
いちいち、そわそわするなんておかしい。私と彼は、偽装の関係だ。
私は自分に言い聞かせ、「はい」と彼に笑みを向けた。