スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 北斗さんと極上のディナー体験をして、部屋へと戻ってきた。

「素敵なラウンジでしたね」

 彼に腰を抱かれたまま部屋に入りそう言うと、北斗さんは「ああ」と優しく返してくれる。
 私はせっかく素敵な体験をしたのだから忘れないよう脳裏に刻もうと、歩を進める彼に身を任せつつ、先ほどのラウンジでのことを思い返した。

 案内された席からは、対岸にある都心の高層ビル群の光が窓の向こうに広がる東京湾に反射し、きらきらと揺らめいているのが見えた。
 ここが都会と切り離された、瀟洒な空間であることを感じさせるロケーション。さらに、この時季は昼間なら富士山まで見えると聞いた。

 それだけでも素晴らしいのに、料理もサービスも一流だった。会話を邪魔しない絶妙なタイミングで現れるウェイターの、こちらに気を遣わせない細やかなサービス。
 楽しみを最高のおもてなしで満足へと昇華させる対応は、さすがだと感心した。

 それをヴィラに反映させたら、どうだろう。ヴィラからの景色は必ず顧客にアピールすべきだし、それをさりげなく伝えるような言い回しのフレーズ集も考えようか。
 そんなことを考えながら、北斗さんに誘われて部屋の奥へ。だがそこで、彼がふと立ち止まった。

「琴子、仕事のことを考えている?」

 なにも言っていないのに、彼は私の心の中をさらりと読む。顔を覗き込まれてそう聞かれ、私ははっと気づいた。

「すみません、つい」

 素直に謝ったのは、彼にも仕事のことを考えさせてしまったと思ったからだ。
 これは視察であるけれども、休暇でもある。それは私だけでなく、北斗さんにとっても同じだ。

「でも、ちゃんと楽しんでもいますよ。ばっちり、休暇です」

 にこっと微笑みそう言うと、北斗さんはなぜかいつもの優しい笑みをしまいこむ。それから、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「不安だな」

 初めて見る彼の表情に、急に鼓動が速くなる。
 どうして突然、そんな顔を?

「大丈夫、です」

 動揺が声色に出てしまう。そんな自分にうろたえていると、北斗さんは自身の右手を私の頭に優しくのせた。それだけで、さらに鼓動が速まっていく。
 目を見開くものの、彼は艶やかな笑みを浮かべたまま、私の輪郭を優しくなぞるように手を滑らせる。

「仕事のこと、俺が忘れさせてあげようか」

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