スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 唐突な提案に、頭が真っ白になる。
 そ、それはいったい、どういうこと……!?

 彼の目を見つめたまま固まっていると、彼が扉を開いた。いつの間にか、ベッドルームの前まで来ていたようだ。

 もしかして今夜、このまま彼と? いや、そんなのはおかしい。
 北斗さんとしたのは偽装の結婚で、私たちの間に愛などない。だから、彼が私を求めるなんて、そんなことあるはずない。

 顔を逸らしてぐるぐる考えていると、唐突に彼がふっと笑いをこぼした。
 途端に羞恥に襲われる。そんなにおかしな顔をしていたのだろうか。だがそっと顔を上げると、彼の視線はベッドルームの中を向いていた。

 私もそちらに視線を移す。ベッドの上に、白鳥の番をモチーフにした美しいタオルアートが飾られていた。周りには、ローズペタルも散らされている。

「これはさすがに、俺も予想外」

 そう言いながら、北斗さんはおかしそうに笑い続ける。
 きっとこれも、おもてなしのひとつ。だけど北斗さんが楽しそうに笑うから、なんだか私も面白くなってしまう。

 みょうちきりんなものを見たわけでもないのに、互いに顔を見合わせ笑い合う。彼と波長が合ったからだろうか、なんとなく心が軽くなるような気がした。

 白鳥の番をそっとバニティに移動させ、順番に風呂に入った。

 ベッドルームには、キングサイズのダブルベッドがひとつ。そこに、北斗さんと背中合わせになって入る。
 だが、私は上手く眠れる気がしなかった。先ほどの、胸の高鳴りを思い出してしまうのだ。

『仕事のこと、俺が忘れさせてあげようか』

 そう言った蠱惑的な彼の表情が、頭に焼き付いて離れない。

 どうして彼が唐突に、あんなことを言ったのか。それはきっと、頭の中がどうしても仕事になってしまう私から、仕事を切り離すためだ。
 だとしたら、北斗さんのやり方は大正解だと思う。仕事のことなんて考えられないくらい、頭の中が先ほどのことでいっぱいなのだから。

 背中のほうから、彼の寝息が聞こえる。
 北斗さんがああ言ったのも、彼の気遣いのひとつ。あの時は咄嗟にその意味を考えてしまったけれど、きっと深い意味などなかったのだ。

 私はそう自分に言い聞かせ、何度か深呼吸を繰り返す。そうしているうちに、いつの間にか眠りについていた。

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