スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 リビングの窓辺にある、デイベッドに腰かける。北斗さんが少しだけ開けてくれた窓から吹き込む冬の夜風は、火照った体にちょうどよい。

「もう少し暖かい季節だったら、テラスで飲んでもいいんだけどね」

 北斗さんがそう言って笑いながら、私の右隣に座った。確かに、テラスに出るには寒すぎる。

「でも、ここからでも景色は十分に綺麗ですよ」

 私は窓の外に広がる東京湾を見ながら答えた。

 丸い月が、ぽっかりと空に浮かんでいる。それが東京湾に反射して、きらきらと煌めいている。
 ぼうっと外の景色を眺めていると、不意に北斗さんが月を指差した。つられて、私も窓の外を見上げる。

「月のすぐ下に見える、アルニタク、アルニラム、ミンタカ。直線に三つ並ぶあの星が、オリオン座の目印だ」

 言いながら、彼はそっと手を下げた。
 彼の優しい声色は、冷たい夜風と相まって心地よい。彼の言葉はどこか懐かしい映像となって、私の脳裏に再生された。

「知っています。幼い頃、空を見上げて見つけるの、好きでした。東京の明かりの中でも私が見つけられる、唯一の星座だったので」

 そんな思い出もあったなと口にすると、北斗さんが言う。

「俺も幼い頃から、好きな星座なんだ。オリオン座はどこにいても、すぐに見つけられる」

 同じことを共有していた嬉しさからだろうか。なんとなく彼の顔が見たくなって、視線を隣へ移す。北斗さんはなぜか決意のこもったような顔で、空を見上げていた。

「俺は父さんや兄さんが育ててきてくれたオリオングループをともに背負う人間として、オリオングループもそういう存在にしたいと――今でもたまに、空を見上げるんだ。琴子にとっても特別な星座なら、嬉しい」

 北斗さんは言葉の最後で急に優しい顔をする。その笑みに、私の胸はとくり、とくりと甘く反応する。
 じっと彼を見つめていると、不意に彼がこちらを振り向いた。思ったよりも近くで目が合う。彼の瞳に、私がはっきりと映った。

 彼は驚いたような顔をしていたけれど、すぐに優しく目を細める。

「琴子」

 名前を呼ばれて胸が一層跳ねるのは、まだそう呼ばれ慣れていないからだろうか。

 徐々に激しくなる胸の高鳴りを感じたまま彼を見つめていると、彼の左手がそっと私の右頬を撫でた。彼の指はそのまま私の輪郭をなぞり、顎を優しく持ち上げる。
 心臓がおかしなほど高鳴っている。だけど、彼と目を逸らしたくない。なにかに囚われてしまったかのように、私は彼をじっと見つめ続ける。

 どのくらい、そうしていただろう。不意に、彼の顔がそっと私に近づいてきた。

 甘い予感に、私は静かに目を瞑る。次の瞬間、唇に柔らかな温もりが触れた。
 甘くて、優しくて、温かい。北斗さんらしいその温もりに、胸の奥がきゅっと苦しくなる。

 彼の唇がそっと私から離れる。目を開くと、真剣な顔をした彼と目が合った。彼の瞳に映った私は、とろんとしている。

 この後、どうなってしまうのだろう。淡い期待と不安を感じながら彼を見つめていると、その刹那。
 ぴゅっと、強い風が窓から吹き込んできた。

 はっと我に返り、慌てて体を彼から離す。

 どうして私たち、キスなんて――。

 北斗さんも私から手を放したが、彼はどぎまぎする私とは反対に、いつもと同じ優しい笑みを浮かべていた。

「冷えてきたね。琴子、先にお風呂をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 私は胸の高鳴りを早く収めたくて、そう言うとそそくさと風呂へ向かった。

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