スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 病院の受付で名前を告げる。伯父のいる病室へと慌てて入ると、伯父はベッドの上に座り、なにかの資料に目を通していた。
 だがこちらを見ると、すぐに目を丸くする。

 今この場所に莉緒ちゃんはいない。帰ったのだろうか。

「伯父さん、よかった……」

 とにかくつらそうな状況ではないことにほっとして、伯父のもとへ。
 伯父はバツが悪そうに、苦笑いを浮かべた。その頬は、結婚の挨拶で会った時よりも痩せ細って見える。

「すまない、心配をかけたね」

 伯父はそう言って、力なく笑う。
 私はベッドサイドに用意されていた丸椅子に腰かけ、ため息をこぼす伯父に向かって静かに口を開いた。

「莉緒ちゃんに聞いたの。体の具合、大丈夫なの?」

 わざとゆっくり聞いたのは、私が焦る様子を見せることで、余計な心配をかけていると伯父に意識されたくないからだ。
 だが伯父は顔をしかめて「莉緒が……」と呟き、再び深いため息をこぼした。

「ごめんな、琴子ちゃん。結婚したばかりで幸せいっぱいの琴子ちゃんに、水を差すようなことをしたくはなかったんだが。結局、駆けつけてもらっちゃったな」

 無理に笑顔をつくる伯父に、申し訳ない気持ちになる。

「なあに、心配することはないさ。ただの過労だそうで、しっかりした検査と投薬が必要だから、ちょっと入院するだけ。すぐに退院できるよ」

 伯父はふふっと笑ったけれど、私には「じゃあ大丈夫だね」と言うことはできなかった。

 伯父はいつだって、私に弱みを見せず、甘く優しい。私が樫江精機を継がなかったのも、伯父の優しさに起因しているのだ。
 大学在学中、私はてっきり樫江精機を継ぐものだと思っていた。だが伯父にその話をすると、伯父は真剣な顔をして私に告げた。

『私は琴子ちゃんのお父さんと約束したんだ。琴子ちゃんには、自由に生きさせてやるんだと。会社のことで、佐宗家のことで、琴子ちゃんを縛ってはいけないと。樫江精機を守るのは、私の務め。琴子ちゃんはしたいことをして生きなさい』

 申し訳なく思ったけれど、その後私がオリオンレジデンスホテル東京に就職すると伝えた時には、伯父も伯母もとても喜んでくれた。だからその時は、それで正解だと思った。

 だけど、今は。

「育ててもらったんだもの、心配するのは当たり前。それに、会社のことも大変だって聞いたよ。伯父さんが倒れたのだって、過労が原因なんでしょう? だったら、私も力に――」

 だが私の言葉を遮るように、伯父が首を静かに横に振る。

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