スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「莉緒は大げさに伝えすぎなんだ。私も会社も、本当に大丈夫。だからこちらの心配はせずに、琴子ちゃんは旦那さんと幸せになりなさい。それが、私にとって一番嬉しいことだよ」

 伯父がそう言って、再び私に笑みを向ける。その慈愛に満ちた表情を見ていられず、私は視線を落とした。
 樫江精機は、私の両親が営んでいた。伯父は私を縛らないようにしてくれるけれど、本当にそれでいいのだろうか。

 ふと、伯父が先ほどまで見ていた資料が目に入った。なにかのリストのようで、どこかの会社名と数字が並んでいる。だが私がそれを読む前に、伯父はさっと布団の中に隠した。

「とにかく、私たちは大丈夫。もう外も暗いし、早く帰りなさい」

 そう言われてしまっては、なにも言い返せない。

「なにかあったら遠慮しないで、すぐ伝えてね」

 私は笑顔でそう伯父に残し、病室を出た。

 だが病室の扉を閉めてすぐ、私は肩を落とした。同時に、ため息がこぼれる。
 伯父は私に、なにかを隠している。樫江精機は、本当は全然大丈夫じゃないのかもしれない。

「私、なにもできないのかな……」

 静かな病院の廊下で立ち止まったまま、私はひとり呟いた。

 すべて、私の杞憂だったらいいのだけれど。
 私はいつの間にか握り締めていた、自分の拳を見つめた。なにもできないもどかしさに、下唇を噛む。

 ううん、このままじゃダメだ。私にも、なにかできることがあるはず。
 私はとにかく樫江精機に行ってみようと、その場を後にした。

「琴子ちゃん!」

 病院を出たところで、不意に名前を呼ばれた。振り返ると、小柄な女性が神妙な顔で立っている。

「莉緒ちゃん……」

 私が目を見開いている間に、彼女はこちらに小走りにやってきた。

「会えてよかった。ごめんね、急に来てもらっちゃって」

 わたしはううん、と首を横に振った。だが、彼女の表情は晴れない。

「お父さん、きっと『自分も会社も大丈夫』って言ったでしょう?」

 暗い顔で話す莉緒ちゃんに、先ほどの杞憂は現実のものだったのだと思い知る。

「莉緒ちゃん、もしよかったら、私に話してくれない? 樫江精機のこと、なにか協力できることがあるかもしれない」

 そう言うと、彼女は目元を潤ませて私を見上げた。

「ありがとう、琴子ちゃん」

< 68 / 105 >

この作品をシェア

pagetop