スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 彼というのは、おそらくホストのこと。莉緒ちゃんは会社のお金を使って、ホストクラブへの支払いをしていたのだろう。
 伯父が倒れたのは、会社の資金繰りのせいじゃなくて、莉緒ちゃんが会社のお金を使い込んだからかもしれない。

 すべてが繋がると同時に、頭が真っ白になる。だが、このままではダメだ。

 気持ちを落ち着けようと胸に手を当てていると、急に莉緒ちゃんの姿が消える。はっと振り向くと、莉緒ちゃんは事務室のドアノブに手をかけていた。

「会社のこと、琴子ちゃんがしてくれるんでしょ? 私なんかいらないよね!」

 泣きそうな声でそう叫び、莉緒ちゃんは事務室を飛び出してしてゆく。

「莉緒ちゃん、待って!」

 慌てて叫び、追いかける。だけど莉緒ちゃんは大通りに出ると、通りかかったタクシーを停めて乗り込み、夜の街へ溶け込むように行ってしまった。

 うそ、どうしよう……。

 手にしていた領収証を握り締めたまま、私は莉緒ちゃんの去っていった方向を見つめ、しばらく呆然としていた。

 とにかく今日は、なにをするにも時間が遅い。私は頭を整理したくて、帰宅した。

 真っ暗な部屋の中、誰もいない広すぎるリビングのソファによろよろと座る。
 座り心地のよいベロアのソファは、重たくなった私の気持ちまで優しく包み込んでくれるようだ。私はそこに体を預け、今後のことを考えた。

 莉緒ちゃんがどこかへ行ってしまった。先ほど電話もかけたが繋がらず、送ったメッセージも既読にならない。
 そんな状況でも、樫江精機は続いていく。頭の中には、先ほど事務室を飛び出した時の、莉緒ちゃんの叫びが響いていた。

『会社のこと、琴子ちゃんがしてくれるんでしょ? 私なんかいらないよね!』

 莉緒ちゃんのことは心配だ。だけど優先すべきは、樫江精機だろう。伯父も莉緒ちゃんもいない中で、状況を知っている私が動くのが一番いい。

 とにかく明日、樫江精機へ。伯父にも、状況説明しなくては。それから――。

 一旦考えをまとめようと、私はスマホを取り出した。メモをしておかないと、キャパオーバーで脳がパンクしそうだ。

 すると、北斗さんからメッセージが届いていることに気づいた。それで、気持ちがちょっとだけ落ち着く。
 先ほどは届いていなかったから、今さっき送ってくれたのだろう。今、日本は深夜。アメリカは昼間だ。

 私はすぐにメッセージを開いた。

【琴子、お疲れ様。ヴィラの従業員トレーニングは順調だと聞いているよ。こちらも順調。予定通りに帰れそうだ】

 優しいメッセージに、心がほぐされたような気持ちになる。私はすぐに返信の文字を打った。

【メッセージありがとうございます、嬉しいです。ヴィラのスタッフが皆優秀なおかげで、トレーニングは問題なく進んでいます。北斗さんも、お仕事頑張ってください】

 だが、それを送信してからはっとする。こんな深夜に即レスなんて、北斗さんに不審がられるかもしれない。

【あ、実は仕事から帰宅して寝てしまっていて、今は目が冴えてるんです。明日休みでよかった~】

 続けざまに慌てて送信し、はあ、とため息をこぼした。こんなちょっとのことで浮かれて、彼に心配をかけてはいけない。

【琴子は、頑張りすぎないように】

 すぐに帰ってきたメールからも、彼の優しさを感じる。それで、胸がきゅっと締めつけられた。

「北斗さん……」

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