スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
翌日。私は朝早くから、樫江精機を訪れていた。
幸い、働いている職人の中に父の古い友人、井手さんがおり、私のことを覚えていてくれた。彼は樫江精機の経営状況が芳しくないことをなんとなく知っており、伯父も莉緒ちゃんもいない今私が手伝いにきたと告げると、現場の状況を細かく教えてくれた。
それをまずは頭に叩き込み、午後。私は伯父のもとを訪れた。鞄には、離婚届が入っている。病院へ来る途中に役所に寄り、もらってきたのだ。
病室に入ると、伯父は昨日と同じようになにかの資料を読み込んでいた。だがすぐに布団の中にさっと隠し、私に笑みを向ける。その目元には、わかりやすく困惑の色が浮かんでいた。
「伯父さん、こんにちは」
努めて笑顔で声をかける。すると、伯父は「いらっしゃい」と私を中に促してくれた。私が病床横の丸椅子に腰かけると、伯父はすぐに口を開く。
「琴子ちゃん、どうしたんだい。仕事はいいのかい?」
今日の私はスーツ姿。樫江精機で働くのに、カジュアルではいけないと思って着てきたのだ。だが、それが伯父に勘違いをさせたらしい。
私はここに来るまでに伯父に話すと決めたことを、そっと口にした。
「今日は仕事は休みなの。だけど……伯父さん、驚かないで聞いてね。私、今朝、樫江精機へ行ってきた。樫江精機の状況とか、色々聞いてきたよ」
すると伯父が目を見開く。
「琴子ちゃんがすることじゃないと、告げただろう。どうして――」
「全部、私のせいだから」
私は伯父の言葉を遮るように言った。伯父は目線を下げ、そのままゆっくりとまばたきをする。
「もしかして、また莉緒が……」
伯父の声には力がない。そしてその言葉と青ざめた顔色から、伯父は莉緒ちゃんの横領を知っていると確信する。
「昨日、莉緒ちゃんに会ったの。だから……私も全部知ってる」
「それならなおさら、琴子ちゃんは関わっちゃいけない! 旦那さんと幸せになるんだ」
伯父は顔を跳ね上げ、必死の形相でそう言った。私を巻き込みたくなかったという、伯父の優しさが胸に刺さる。
「今からでもいい! 会社のことは私がなんとかするから、琴子ちゃんはこれまで通り――」
「それはできません」
必死に紡がれる伯父の言葉を、私は毅然と遮った。すると伯父は押し黙る。そのまま俯く伯父に、私はそっと続けた。
「樫江精機は、私の両親が立ち上げた会社。それを伯父さんは、すべてを投げ捨てて継いでくれた。たくさん苦労をかけてきたのに、私がなにもしないなんてできないよ」
ぽろぽろとあふれる思い。今まで私が押し付けてきた、知らぬ存ぜぬで生きてきたという罪悪感が、胸を圧迫していく。
幸い、働いている職人の中に父の古い友人、井手さんがおり、私のことを覚えていてくれた。彼は樫江精機の経営状況が芳しくないことをなんとなく知っており、伯父も莉緒ちゃんもいない今私が手伝いにきたと告げると、現場の状況を細かく教えてくれた。
それをまずは頭に叩き込み、午後。私は伯父のもとを訪れた。鞄には、離婚届が入っている。病院へ来る途中に役所に寄り、もらってきたのだ。
病室に入ると、伯父は昨日と同じようになにかの資料を読み込んでいた。だがすぐに布団の中にさっと隠し、私に笑みを向ける。その目元には、わかりやすく困惑の色が浮かんでいた。
「伯父さん、こんにちは」
努めて笑顔で声をかける。すると、伯父は「いらっしゃい」と私を中に促してくれた。私が病床横の丸椅子に腰かけると、伯父はすぐに口を開く。
「琴子ちゃん、どうしたんだい。仕事はいいのかい?」
今日の私はスーツ姿。樫江精機で働くのに、カジュアルではいけないと思って着てきたのだ。だが、それが伯父に勘違いをさせたらしい。
私はここに来るまでに伯父に話すと決めたことを、そっと口にした。
「今日は仕事は休みなの。だけど……伯父さん、驚かないで聞いてね。私、今朝、樫江精機へ行ってきた。樫江精機の状況とか、色々聞いてきたよ」
すると伯父が目を見開く。
「琴子ちゃんがすることじゃないと、告げただろう。どうして――」
「全部、私のせいだから」
私は伯父の言葉を遮るように言った。伯父は目線を下げ、そのままゆっくりとまばたきをする。
「もしかして、また莉緒が……」
伯父の声には力がない。そしてその言葉と青ざめた顔色から、伯父は莉緒ちゃんの横領を知っていると確信する。
「昨日、莉緒ちゃんに会ったの。だから……私も全部知ってる」
「それならなおさら、琴子ちゃんは関わっちゃいけない! 旦那さんと幸せになるんだ」
伯父は顔を跳ね上げ、必死の形相でそう言った。私を巻き込みたくなかったという、伯父の優しさが胸に刺さる。
「今からでもいい! 会社のことは私がなんとかするから、琴子ちゃんはこれまで通り――」
「それはできません」
必死に紡がれる伯父の言葉を、私は毅然と遮った。すると伯父は押し黙る。そのまま俯く伯父に、私はそっと続けた。
「樫江精機は、私の両親が立ち上げた会社。それを伯父さんは、すべてを投げ捨てて継いでくれた。たくさん苦労をかけてきたのに、私がなにもしないなんてできないよ」
ぽろぽろとあふれる思い。今まで私が押し付けてきた、知らぬ存ぜぬで生きてきたという罪悪感が、胸を圧迫していく。