スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 翌朝、私はオリオングループ本社に向かい、退職届を提出した。夜通しでつくった引継資料も合わせて手渡し、今日午後からしばらくの有給休暇を経てホテルでの仕事を辞めることとなった。
 ホテルの仕事も、クオリティ・マネージャーの仕事も、途中で投げ捨てることになってしまった。罪悪感が胸をよぎるけれど、ヴィラのスタッフは優秀であるし、北斗さんならすぐに優能な後任を見つけてくれるだろうとも思う。

 その後は樫江精機へ向かい、さっそく仕事に着手した。融資を受けられそうなところを探しつつ、現段階の赤字をどうやって埋めるか、必死に考える。

 やがて終業時刻を過ぎると、樫江精機の従業員がひとり、またひとりと、私に「お疲れさまでした」と声をかけて帰宅していく。気がつけば、窓の外はすっかり暗くなっていた。

 従業員のいなくなった樫江精機の事務室で、私はひとりパソコンと向かい合っていた。
 荷物は手元にある。帰る場所があるわけでもないので、しばらくはここに寝泊りしながら仕事をするつもりだ。

 今の取引先への商品の納期を早めたら、入金も早くしてもらえないだろうか。そのためには、こっちの取引先との納期を――。
 頭を働かせていると、机の上のデジタル時計がピピっと鳴った。深夜零時を知らせたのだ。

 それでも、休んでいる暇などない。私は必死に頭を働かせ、ベストを導き出そうと考える。
 その時、こんな夜更けにもかかわらず、樫江精機のインターフォンが鳴った。

 莉緒ちゃん!?

 私は慌てて事務室を飛び出し、正面入り口へ。そのすりガラス越しに人影が見え、私は急いで扉を開けた。

「莉緒ちゃ……」

 言葉に詰まってしまったのは、そこに思いも寄らぬ人物が立っていたからだ。

 それは、私の夫だった人物。今日はまだ、アメリカにいるはずの人物。

「琴子! よかった、ここにいたのか……」

 そのほっとしたような顔に、胸がぎゅうっと締めつけられる。同時に脈が耳元で波打ち、呼吸が速くなった。

 どうして、北斗さんがここに……?

 ドアのノブを握り締めたまま立ち尽くしていると、北斗さんが口を開いた。

「会社からは仕事を辞めたと報告を受けたし、離婚届けも見た。どうして急に、そんなことを――」

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