スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「北斗さんには、もう関係のないことです」

 私は彼に伝わるように、はっきりと言葉にした。

「私はあなたが嫌いになりました。もうそばにはいたくない。だから離婚届を書いたし、仕事も辞めました。もう関わらないでください」

 事情を話しては、彼の同情を誘おうとしているみたいだ。だから敢えて、強い言葉で突っぱねようと思った。
 だけど傷ついたような彼の顔を見たら、涙があふれそうになった。彼の顔を見なくていいように、慌てて視線を落とす。

 すると今度は、彼の左薬指に嵌った指輪が目に入った。街灯を反射してきらりと光るそれが、私の心を抉る。
 あなたを傷つけることでしか、あなたを守る方法がわからない。こんな自分勝手な私で、ごめんなさい。

 心の内で懺悔し、私は決意とともに顔を上げる。

「とにかく、もう私には関わらないでください。ここにも来ないで」

 そう言って、思い切り扉を閉めた。慌てて鍵を閉め、扉を後にする。

 だけど事務室に入り、その扉を閉めた時。張り詰めていた気持ちが、ぱちんっと弾けてしまったらしい。
 体から力が抜けてゆく。よろよろと扉に背を預けて座り込み、頭もそこに預けた。

 まさか、北斗さんがここに来るなんて。想定外のことに動揺したが、うまく言葉を返せていただろうか。

 ふと、窓の外を見る。西の空に、オリオン座の三ツ星が浮かんでいるのが見えた。
 彼がヴィラで教えてくれた、彼の夢を思い出す。

『オリオン座はどこにいても、すぐに見つけられる』
『俺は父さんや兄さんが育ててきてくれたオリオングループをともに背負う人間として、オリオングループもそういう存在にしたい』

 そのためには、私の存在はこれから先、お荷物でしかない。だから、これでよかったんだ。そう、思うのに……。

「北斗、さん」

 呟いた声は、震えている。それを意識したら、こみ上げてきたものが堰を切ったようにあふれだしてきた。

「北斗さん、ごめんなさい……」

 その夜、私は何度もそう呟きながら、その場で涙を流し続けた。

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