スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない

*(side 琴子)

 北斗さんを追い返したあの日から、三日が過ぎた。

 私は従業員の皆に頑張ってもらおうと声をかけつつ、新しい取引先の獲得にも努めていた。だが、なかなかうまくいかない。
 そもそも、会社の経営なんて初めてだ。伯父に助けを乞うこともできないまま、ノウハウのない私は必死に活路を見出そうと奮闘していた。

 北斗さんからの接触は、あの日以降ない。そのことには安堵しているのの、まだ懸念が消えたわけじゃない。莉緒ちゃんの行方も、依然としてわからないままだ。
 いつ、莉緒ちゃんが北斗さんのもとへ向かうかわからない。北斗さんがさっさと離婚届を提出して、私との関係を断ってくれていたらいいのだけれど。

 そんな少しの不安を抱えたまま、今日、伯父の退院日を迎えた。
 私は車を持っていないから、お迎えは父の旧友である井手さんに頼んである。

 伯父は退院後、そのままこちらに戻ってくるという。退院の日くらい家でゆっくりしてほしいけれど、伯父のことだ。樫江精機のことも、私のことも心配しているに違いない。
 だったら早く、樫江精機を見てもらいたい。皆が現状を維持してくれているとわかれば、伯父も少しは安堵できるだろう。

 午前十一時。そろそろ伯父が帰ってくる時間だと、私は従業員を連れて外へ出た。
 二月の半ばにもかかわらず、今日は日差しがぽかぽかと温かい。冬日和とは、こういう日のことをいうのだろう。

 しばらくすると、井手さんの白いワンボックスが見えた。助手席には、こちらに手を振る伯父の姿。その光景に安堵して、私たちは駐車場へ移動した。
 伯父が車から降りてくる。皆で出迎えると、伯父はこちらに向かって頭を下げた。

「皆、心配をかけてすまなかったね。莉緒までいなくなって、本当に申し訳なかった」

 それから頭を上げ、こちらを向く。

「琴子ちゃん、この数日間のことは彼から聞いたよ。樫江精機のために奔走してくれて、本当にありがとう」

 伯父の言葉に、私は首をゆっくりと横に振った。伯父の苦労に比べたら、こんなことなんでもないと思う。

「ううん、よかった。これからも、私は樫江精機で伯父さんと――」

 最後まで言えなかったのは、駐車場内に別の車が入ってきたからだ。

 タイヤが砂利を踏む音に、そちらを見る。それで、私の胸はどくりと嫌な音を立てた。
 あの黒いセダンは、北斗さんの車だ。しかもセダンは迷うことなく、樫江精機の敷地内に入ってくる。

 うそでしょう、どうしてこんな時に……。

 どっ、どっ、どっ。心臓が聞いたことないくらいの速い音で打ちつける。
 同時に、後方にいる従業員たちからも戸惑いの声が聞こえてきた。どうにかしなくてはと、私は従業員を振り返る。

 だけど、なんて説明すればいいだろう。彼は元夫ではあるが、もう縁を切った人。そもそも、どうして彼がここに来たのかもわからない。
 皆がこちらを見ている。私は咄嗟に笑みを浮かべ、口を開いた。

「すみません、お客様かもしれません。私が対応しますので――」

 そこまで言った時、伯父の手が私の肩にのった。振り向くと、伯父は優しく微笑んでいる。

「大丈夫。彼は、私のお客さんだから」

 いったい、どういうこと?

 聞こうと思った時、北斗さんが車から降りてくるのが見えた。私は黙って、そちらを注視することにした。

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