スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 彼はなぜか助手席へと回る。それからいつものにこやかな顔で、助手席の扉を開いた。

「話が違うじゃない! 私にお金を貸してくれるって言ったのに、どうしてここに連れてこられなきゃならないのよ」

 この声の主は、莉緒ちゃんだ。
 胸がざわついたが、北斗さんはあまりにも余裕そうだ。だから私は、事態をそのまま見守る。

「落ち着いてください、莉緒さん。融資の話は、こちらでもできるでしょう?」

 そう言う北斗さんに促され、莉緒ちゃんが怒りながら車から降りてくる。だがすぐに私たちが見ていることに気がついて、ひっと顔を引きつらせた。
 北斗さんは動揺する莉緒ちゃんを華麗にエスコートして、こちらにやってくる。そのまま私たちの前で立ち止まったので、私ははっと背を正した。

「皆さん、初めまして。オリオングループよりまいりました、獅子内北斗と申します」

 北斗さんが丁寧な口調でそう言って、にこっと爽やかに微笑む。今日も完璧なスーツ姿の彼は、高貴な気品をまとっている。

 私の後方からは、「オリオングループって、あの大川電鉄の?」「不動産も扱っていたな」などと、どよめきが起きる。
 私も事態がのみ込めず、伯父をちらりと見た。だが、伯父は私に「大丈夫だ」と言うように、笑顔で一度頷くだけだ。

 そんな私たちを見て、北斗さんが話を始めた。

「まず、佐宗莉緒さん。あなたは俺に、『樫江精機の資金繰りで苦労しているから、融資をしてほしい』と訴えてきましたよね?」

 その言葉に、どきりとした。私も同じ説明をして、莉緒ちゃんにお金を求められたのだ。

「そ、そうよ。あなたが融資してくれるっていうから、ついてきたの」

 莉緒ちゃんは気まずそうな顔でふいっとそっぽを向く。はらはらしていると、北斗さんは口角の皺を深くして続けた。

「あなたはどうやら、経営でだいぶ苦労されていたとか。だから実は、あなたがこれ以上経営で苦しまないようにと、あなたのお父様と相談し、我がオリオングループが樫江精機を買収することにしました」
「はあっ!?」

 莉緒ちゃんが、驚嘆の声を上げる。私も同じ声が出そうだった。
 確かに、経営のノウハウも豊富な一流企業が買収してくれたら、樫江精機は安泰だろう。
 けれど今、彼はもう私たちとは無関係のはずだ。なのに、どうしてそんなことを?

 戸惑い呆然とする私に、北斗さんは一度優しく微笑む。それから隣にいる莉緒ちゃんを向き直り、続けて言った。

「樫江精機の技術はすばらしく、その商品の精度も高い。経営の悪化でなくしてしまうには、惜しいと思いました。それに、今後の経営は我がオリオングループが引き継ぐ。莉緒さんは経営から外れられるので、もう経営のことで苦しまなくてよくなる。ウィンウィンですよ」

 その言葉に、莉緒ちゃんが居心地悪そうにおろおろし始めた。だが北斗さんは笑顔のまま、伯父に目くばせする。
 伯父は北斗さんの視線を受け、彼に頷いた。それから、私や後方にいる従業員に向けて、そっと口を開く。

「皆、勝手に決めてしまい、申し訳ない。実は、莉緒が会社の金を勝手に使い込んでいたんだ」

 伯父がそこまで言った時、莉緒ちゃんの顔が途端に強張った。

 だが、予想に反して従業員からのどよめきは起きない。ちらっと後ろを振り向くと、呆れ顔でため息をこぼす従業員が数人いた。むしろ、オリオングループに買収されると聞いたからか、安堵したような顔まで見える。
 どうやら、莉緒ちゃんは相当怪しまれていたようだ。

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