スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「ありがとう、北斗くん……」

 伯父が小さな声を震わせながら、北斗さんへの感謝を告げる。
 私も感謝を告げようと、北斗さんに頭を下げた。

 だがその時、少しだけ開いた井手さんと北斗さんの間に、莉緒ちゃんがそっと一歩足を踏みだすのが見えた。

「莉緒ちゃん?」

 顔を上げ、声を出す。すると莉緒ちゃんがこちらを振り返り肩を震わせた。彼女の顔は、見たことないくらい青白い。
 だが次の瞬間には急に顔を赤くして、眉をつり上げる。

「なによ、めでたしめでたしみたいな顔をして!」

 莉緒ちゃんはそう叫び、駆けだそうとした。
 しかし彼女の行く手は、華麗に移動した北斗さんによって遮られる。彼が、莉緒ちゃんの前に立ちはだかったのだ。

 彼の顔に、もう先ほどのような優しい笑みはない。眉間に皺を寄せた激しい剣幕に、私まで背筋が凍りそうだ。
 北斗さんの前で、莉緒ちゃんは小さく体を震わせている。だが北斗さんはその顔のまま、彼女に言い放った。

「君は軽い気持ちで、ほんの借りる気持ちで会社の金を使ったのかもしれない。だがその罪のその重さを、とくと知れ。俺はこのまま、君を逃がしたりしない」

 莉緒ちゃんがひっと息をのむ。だが北斗さんは鋭い目つきを莉緒ちゃんに向けたまま、続けた。

「君が横領した証拠は、すでに弁護士を通じて警察へ提出してある。今日ここへ君が来ることも、事前に警察に連絡済みだ」

 莉緒ちゃんはたがたがと大きく震えだした。そのまま北斗さんの横へ出て、一目散に逃げようする。
 しかしその時、一台の黒塗りの車が、莉緒ちゃんの行く手を阻むように駐車場へ入ってきた。車はその場ですっと止まり、スーツを着たふたり組の男性が降りてくる。ふたりは莉緒ちゃんに警察手帳を見せると、険しい顔で告げた。

「佐宗莉緒さんですね。業務上横領の容疑で、逮捕状が出ています。ご同行願います」

 莉緒ちゃんは顔色を失い、その場によろよろと崩れ落ちる。
 従業員からも、「警察!?」「本当に逮捕されるのか?」と動揺のどよめきが起った。

 莉緒ちゃんは警察官に両側から支えられ、無理やり立たされた。だが、不意にくるっとこちらを振り向く。

「全部、琴子ちゃんのせいだから! 琴子ちゃんが余計なことをするから、こんなことになったのよ!」

 叫びながら私を睨みつける莉緒ちゃんの目は、血走っている。それに胸がぞわりとざわめくものの、莉緒ちゃんは警察車両へ収容され、そのまま去っていった。

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