スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 駐車場に、静寂が訪れる。伯父は莉緒ちゃんの去っていたほうを、複雑そうな顔で見つめていた。
 その小さな肩に、そっと手をのせる。

「伯父さん……」
「これでよかったんだよ、琴子ちゃん。最初から、こうすべきだったんだ。なのに、琴子ちゃんまで巻き込んで。本当に、不甲斐ない」

 そんな伯父の言葉に、私は首を横に振った。

「この三日間、私も父や伯父さんみたいにできるかなって、奔走した。けど……全然ダメだった。伯父さんが樫江精機を守ってくれていたんだって、改めて実感したの。本当に、ありがとう。これからは、私も一緒に樫江精機を守っていくから」

 すると伯父さんはそっと優しい吐息をこぼし、私に笑顔を向けてくる。

「全部、北斗くんのおかげだ。琴子ちゃん、こんなに君のためを思って動いてくれる旦那さんなんだ。絶対に、離れちゃいけないよ。それに、樫江精機は本当に、もう大丈夫だ。だから、琴子ちゃんは琴子ちゃんの道を、歩みなさい」

 それは拒絶の言葉のようにも感じたが、伯父は温かい笑顔をこちらに向け続ける。

「ホテルではとても責任のあるポジションを任されたと聞いているよ。ホテルの仕事も、北斗くんとの結婚も、琴子ちゃんにとってはとても大切なものだろう?」

 その言葉に、胸から熱いものがこみ上げる。
 だけど、私には樫江精機だって大切だ。それに、北斗さんには離婚届を書いたし、ホテルには退職届も提出した。今さら戻ることなんて、できない。

 つい視線を落とし黙っていると、伯父はさらに続けた。

「樫江精機には、たまに顔を見せてくれればそれで十分だ。それに、今ならまだ間に合う。そうだろう、北斗くん」

 視線を上げると、伯父は私の背後に視線を向けていた。振り返ると、北斗さんが優しい顔で微笑んでいる。

「ええ、大輔さん、もちろんです」

 北斗さんはそう言うと、懐からなにかを取り出した。それは、私が書いた離婚届と、記入し提出したはずの退職届だ。
 驚き、伯父に向き直る。すると伯父は、従業員に向かって口を開いた。

「皆、聞いてくれ。琴子ちゃんは大切な仕事も結婚生活も手放して、樫江精機のためにと駆けつけてくれた。皆はそんな優しい私の姪に、まだここに残ってほしいと思うかい?」

 従業員の皆のほうへ、ゆっくりと視線を動かす。皆は温かい笑顔を浮かべ、静かに首を横に振っていた。

「皆さん……」

 その笑顔が、心にじわんと染み入ってくる。

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