スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「よかったなあ、琴子ちゃん!」

 そう言って、井手さんが私の背中をぽんっと叩いた。振り返ると、彼はおちゃめに片目を瞑って見せる。

「井手さん、今回はお世話になりました」

 なぜか北斗さんがそう言って、「とんでもない、よかったよかった」と井手さんがけらけら笑った。

「どういうことですか?」

 私の問いに、北斗さんがにこっと笑う。

「彼は今回の、陰の立役者だからね。俺がどうやって、樫江精機の帳簿を警察に提出できたと思う?」

 それで、私は目を見開いた。
 井手さんがちょくちょく事務室に私の様子を見に来たり、仕事を手伝ってくれたりしたのは、単に私が頼りなくて心配だからだと思っていた。だけどまさか、裏で動いてくれていたなんて。

 樫江精機を守ってくれていたのは、伯父だけじゃない。皆も一緒だったんだ。
 そのことに気がつき、私は背を正して従業員の皆に頭を下げた。

「皆さん、本当にお世話になりました。これからも、樫江精機をよろしくお願いします」

 心からの気持ちを込めて、そう口にする。
 そんな私の背を、井手さんがぱしっと優しく叩いた。振り返ると、彼は泣きそうな顔で笑っている。

「いいってことよ。さて、仕事に戻るとするか。俺、湿っぽいのは嫌いなんだよ」

 井手さんはそれから、先陣を切って社内へと戻っていく。皆がつられて、ぞろぞろと社内へと移動し始めた。

「琴子ちゃん」

 伯父に名前を呼ばれ、改めて彼と向き合った。すると、伯父はどこかほっとした様子で言う。

「私も、もう戻るよ。午後にはオリオングループの人が来てくれる予定なんだ。引き継ぎの準備をしなくてはならないからね」

 それから、いつの間にか私の隣に立っていた北斗さんに向かって続けた。

「北斗くん、今回は本当にありがとう。この恩は、いつか必ず。それから、今後も琴子ちゃんをよろしく頼むよ」
「恩義だなんて、製品で返していただければ問題ありませんよ。それに、安心してください。俺はもう、二度と彼女の手を放しません」

 そう言って、北斗さんに肩を抱き寄せられる。
 肩に触れた彼の温もりに、胸がトクンと跳ねた。見上げた彼は、とてもかっこいい顔をしている。

 私がピンチの時に、いつも助けてくれる人。そんな彼に対して、強く思う。
 私は、どうしようもなく彼が好きだ、と。

 だがそう思うと、ちくりとした痛みが胸を襲う。私はそれをごまかすように、慌てて伯父を見た。

「伯父さん、どうか今後も無理しないでね。いつでも、連絡して」

 すると伯父は、苦笑いを浮かべた。

「今度無理をしたら、オリオングループを通して北斗くんに連絡が行くだろう。隠しても無駄だろうから、正直に連絡するよ」

 伯父さんはそう言って、私たちに背を向けた。
 北斗さんに肩を抱かれたまま、伯父が樫江精機へと戻っていくのを見守る。伯父は中へ入る前、一度こちらを振り返り、丁寧に頭を下げてくれた。

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