スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 誰もいなくなった駐車場。私は改めて北斗さんに向き直り、頭を下げていた。

「北斗さん。今回のこと、本当にありがとうございました」

 努めて冷静に声を出したのは、このままでは恋心が加速してしまいそうだったからだ。
 私と北斗さんの関係は偽装。まだ離婚はしていないらしいけれど、恋心を持っても虚しいだけだ。

「私はあなたにひどい言葉も投げました。なのに、まさか助けていただくなんて」

 言いながら、今度は胸が痛くなる。
 三日前の夜、私は北斗さんに『私はあなたが嫌いになりました。もうそばにはいたくない』と告げ、樫江精機から追い出したのだ。

 罪悪感に顔を上げられないでいると、北斗さんの右手がそっと左肩に置かれた。その温もりが、私の胸を締めつける。
 小さく顔を上げると、北斗さんはいつもの、優しい笑顔をこちらに向けていた。

「琴子は絶対に、人を傷つけるような言動はしない。あの時俺は、琴子の本心は別にあると思ったよ。それほど、樫江精機を……俺を、守ろうとしていたんだろう? それほど、俺を大切に思ってくれていたんだろう?」

 彼の言葉に、はっと目を見開いた。
 あの時私は必死だったが、そのせいで、私の気持ちは彼にバレていたようだ。彼と離れたくないと心の底で思っていたことも、見透かされていたのかもしれない。

 そう思うと、途端に羞恥がこみ上げる。どぎまぎした私は急いで視線を足元に戻し、黙った。
 すると北斗さんは私の肩から手を退け、くすりと笑う。

「俺は嬉しかったよ。それに、君を手放したくなかったのも事実だ」

 その言葉にドキッと胸が跳ねる。再びそっと頭を上げると、北斗さんは涼しい顔で笑っていた。

 その余裕ある様子に、私は自分を戒めた。彼が『手放したくない』のは、ヴィラのクオリティ・マネージャーの私。もしくは、偽装の結婚相手だ。
 彼の言葉にいちいち反応してしまう、ポンコツな胸をどうにかしたい。

「君からの離婚届も退職届も、不受理だ。仕事は有休を取っていたみたいだから、明日から復帰してもらおうと思う。だけどその前に、今日は一日、ゆっくりしよう」

 北斗さんはそう言って、ごく自然に私の右手を取った。

 こんな少しの仕草にも胸がときめき、絆されてしまいそうになる。
 だが、勘違いしてはいけない。彼の言動に、恋愛的な意味はない。

 だったら、私は明日からは、彼の期待に応えられるように、さらに頑張るしかない。
 一度は逃げてしまった、ヴィラのクオリティ・マネージャーの仕事。それを完遂させて、オリオン・グラン・ヴィラの誕生を成功させるしか、私にできることはないのだ。

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