スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 樫江精機に置いていた荷物を持ってくると、北斗さんはそれを流れるように受け取りセダンのトランクへと積んでくれる。それから、助手席を開いてくれた。

「どうぞ」

 いつもの笑顔に胸が跳ねるも、私は平静を装ってそこに乗り込んだ。私がどうしても感じてしまうこの気持ちは、彼には迷惑だろうから。

 相変わらず、高級車らしい革の匂いがする。だが今日はそこに混じって、つんとした花の香りがした。この独特の香りは、莉緒ちゃんの整髪料のものだ。
 すると脳裏に、莉緒ちゃんの去り際の様子が蘇った。

『全部、琴子ちゃんのせいだから! 琴子ちゃんが余計なことをするから、こんなことになったのよ!』

 もちろん、会社のお金を使い込んだ莉緒ちゃんが悪いとわかっている。
 だけど、彼女をそういうふうにしてしまったのは――彼女の性格を歪めてしまったのは、私なのかもしれない。

「琴子、シートベルトを頼む」

 いつの間にか運転席に乗り込んでいた北斗さんの声で、はっと我に返る。

「すみません、すぐに」

 慌ててシートベルトを締めながら、私は自分を律した。
 彼の期待に応えられるように、さらに頑張ると決めたばかりだ。余計なことを引きずって、脳のリソースを割くわけにはいかない。

 北斗さんのセダンが、ゆっくりと都心に向かって走りだす。私はとにかくヴィラのことを考えようと、窓の外に目を向けた。

 スタッフのトレーニングの進捗はどうだろうか。最初の三日でてきぱきと動けていたから、ここ三日でホスピタリティにさらなる磨きがかかっているといい。
 考え始めると、急にそわそわしてくる。

「あの、北斗さん」

 たまらず彼に話しかけた。北斗さんはハンドルを握ったまま、ちらりとこちらを見る。

「これから、ホテルに向かっていただくことは可能でしょうか? 私、トレーニングの様子が知りたくて」

 すると、北斗さんは「ははっ」と声を上げて笑った。

「琴子らしいな。だがこの三日間、琴子が寝る間も惜しんで頑張っていたのを俺は知っているよ。だから今日、琴子は休むべきだ」

 圧倒的な正論に、ぐうの音も出ない。きっと北斗さんは、井手さんから私の様子を聞いたのだろう。
 黙っていると、北斗さんはふっと優しい吐息をこぼす。

「お腹が空いただろう。ランチを食べに行こうか」

 そう言って、彼はハンドルを切った。

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