スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 北斗さんの車は、なぜかオリオンレジデンスホテル東京の地下駐車場に止まる。

「ランチに行きがてら、寄るだけだよ」

 きょとんとする私にそう言って、北斗さんは私をロビー階へとエスコートしてくれた。

 今日も三基の巨大なシャンデリアの下を、たくさんのお客様が行き交っている。私はロビーの隅から、フロントデスクに目を向けた。
 お客様の応対をするフロントクラークの中に、ヴィラからやってきたスタッフがいる。応対が終わると、その様子を後方で見ていた早乙女くんが、スタッフに笑顔でなにかフィードバックしていた。

 私が引き継いだ通りに、皆が動いてくれている。それどころか、お客様の笑顔まで見える。
 その様子に、私は安堵の吐息をこぼした。トレーニングはうまくいっているようだ。

「ありがとうございます、北斗さん」

 しばらくして笑顔を向けると、北斗さんも微笑を返してくれる。

「さあ、そろそろランチに行こう」

 彼はそう言って、私をエレベーターホールへと促した。

 北斗さんに誘われやってきたのは、婚姻届を提出した日に訪れた、ホテル最上階に位置する高級フレンチのお店だった。
 彼はあの日と同じように、個室を手配してくれる。あの時は夜景を見下ろしたけれど、今は昼間。個室の窓からは、ビジネスに動く人たちの車が行き交っているのが小さく見える。

 北斗さんはコース料理ではなく、軽食を選んで頼んでくれた。
 寝不足気味の私には嬉しいが、だったらなぜ、わざわざこのレストランへ来たのだろう。
 疑問に思うも、北斗さんがにこにこしながら食べ進めるので、私も一緒に昼食をとる。

 やがて、食後のコーヒーが運ばれてくる。それを嗜みながら、私は窓の外を見つめた。樫江精機は、多分あっちの方角だ。

「そんなに、樫江精機のことが気がかり?」

 不意に聞かれ、慌てて彼に視線を向けた。

「いえ、とんでもないです。樫江精機は北斗さんが救ってくれました。オリオングループの傘下になったと先ほどネットニュースでも見たところですし、今後のことは心配していません」

 先ほど車の中で北斗さんに「今頃ニュースリリースも出ている頃だ」と言われてスマホを確認したら、本当にニュースになっていたので驚いた。
 これから、樫江精機はオリオングループのもとで立ち直してくれるだろうし、それを信じさせてくれるほどの実績がオリオングループにはある。

「そう。じゃあ、なにか別のことで悩んでいるんだね」
「え?」

 北斗さんが涼しい笑顔でそう言うから、思わずそんな声をもらした。
 すると、北斗さんは優しい口調で言う。

「車に乗った時、琴子の体が少しこわばっているように感じたから。すぐに仕事のことを考えたのは、きっと頭を切り替えるためだろう?」

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