スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
図星だ。北斗さんの観察眼に、私は敵わない。わざわざ個室にしてくれたのも、最初からこの話をするためだったのだろう。
だが、私は口を噤んだ。
偽装の関係でありながら、離婚しようとした私の申し出を破棄し、さらに樫江精機まで救ってもらった。あんなにひどい言葉で突き放したにもかかわらず、離婚も退職もなかったことにして、私を元の場所へ返してくれた。
これ以上彼に気にかけてもらうだけの道理を、私は持っていない。
顔を合わせているのも申し訳なくて、視線をカップの中に移す。
「遠慮しないで。俺たち、夫婦だろう?」
北斗さんの優しい声色が、私の心を震わせる。
だから私は顔を上げ、彼に告げた。
「でも、私たちの関係は偽装です。私は北斗さんに、実家まで救ってもらいました。だからそれ以上のことで、余計な迷惑をかけるわけにはいきません」
すると北斗さんはコーヒーをソーサーに置き、じっと私を見つめた。
「俺が何度、琴子に救われていると思う?」
彼の顔は真剣だ。私と誠実に向き合おうとしてくれているのだろう。
緊張が走る。じっと彼の瞳を見つめ返していると、北斗さんが続けて口を開いた。
「一度や二度じゃない。琴子といると、新しい自分にいくつも出会うんだ。その度に、琴子に会えてよかったと、琴子が俺の妻でよかったと、いつも思う」
彼の言葉はまるで、私を必要だと言っているよう。
だけどそれも自分に都合のよい解釈かもしれない。うまく反応できないでいると、北斗さんはさらに続けた。
「樫江精機の件も。琴子が退職届を出したと知らされてから二時間後に飛行機に飛び乗るなんて、今までの俺だったら考えられなかった。この三日間、琴子が本当に俺を嫌いになっていたらどうしようと、不安で仕方なかった」
「嫌いになんて、なるはずありません!」
思わず反論する。すると、北斗さんはくすりと笑った。
顔が熱くなり、私はおたおたしながら視線を逸らす。北斗さんはそんな私に、続けて言った。
「そんなふうに、いつも新しい俺に気づかせてくれる琴子を、俺は大切にしたいと思う。ただ単純に、琴子のためになりたいと思うんだ」
それはまるで、愛の告白のよう。そう思ったら、胸がきゅうっと痛み、苦しくなった。
私たちは偽装の関係。恋心を抱いてしまったから、こんなふうに思うだけだ。
この気持ちをごまかしたくて、私は俯いたまま口を開いた。この痛みに気を取られるくらいなら、別のことを話して頭を切り替えたい。
「私、両親を喪ってから、樫江精機を継いでくれた伯父に迷惑をかけまいと、生きてきました。両親が大変だったのも知っていたから、余計な気苦労をかけたくなくて……莉緒ちゃんを甘やかしてしまっていたな、と思って。横領は悪いことです。だけど、莉緒ちゃんが誰かに依存したくなる原因をつくってしまったのは、私だったんじゃないかって」
言いながら、莉緒ちゃんが失踪した夜のことが蘇る。
『琴子ちゃんのせいだよ! 琴子ちゃんがここからいなくなったから! プレッシャーで押しつぶされそうな私を救ってくれたのは、彼だけなの!』
あの時莉緒ちゃんに言葉を返せなかったのは、その責任が私にもあると思ったからだ。
幼い頃、私は莉緒ちゃんが笑っていてくれるようにと先まわりしてしまうことが多かった。甘えられたら、できる限りそれに応えた。莉緒ちゃんが笑っていてくれないと、落ち着かなかった。
だけどそれは逆に、莉緒ちゃんが誰かに依存する原因になってしまったのではないか。莉緒ちゃんが横領してしまうほどホストに貢いでしまったのは、理性のたがが外れるほどのめりこんでしまったのは、私のせいなのではないか。
そう考えると、莉緒ちゃんが逮捕された責任は私にもある気がするのだ。
だが言いながら、やはり言わなければよかったと後悔に襲われる。こんな顔を、北斗さんに見せたくはなかった。
だが、私は口を噤んだ。
偽装の関係でありながら、離婚しようとした私の申し出を破棄し、さらに樫江精機まで救ってもらった。あんなにひどい言葉で突き放したにもかかわらず、離婚も退職もなかったことにして、私を元の場所へ返してくれた。
これ以上彼に気にかけてもらうだけの道理を、私は持っていない。
顔を合わせているのも申し訳なくて、視線をカップの中に移す。
「遠慮しないで。俺たち、夫婦だろう?」
北斗さんの優しい声色が、私の心を震わせる。
だから私は顔を上げ、彼に告げた。
「でも、私たちの関係は偽装です。私は北斗さんに、実家まで救ってもらいました。だからそれ以上のことで、余計な迷惑をかけるわけにはいきません」
すると北斗さんはコーヒーをソーサーに置き、じっと私を見つめた。
「俺が何度、琴子に救われていると思う?」
彼の顔は真剣だ。私と誠実に向き合おうとしてくれているのだろう。
緊張が走る。じっと彼の瞳を見つめ返していると、北斗さんが続けて口を開いた。
「一度や二度じゃない。琴子といると、新しい自分にいくつも出会うんだ。その度に、琴子に会えてよかったと、琴子が俺の妻でよかったと、いつも思う」
彼の言葉はまるで、私を必要だと言っているよう。
だけどそれも自分に都合のよい解釈かもしれない。うまく反応できないでいると、北斗さんはさらに続けた。
「樫江精機の件も。琴子が退職届を出したと知らされてから二時間後に飛行機に飛び乗るなんて、今までの俺だったら考えられなかった。この三日間、琴子が本当に俺を嫌いになっていたらどうしようと、不安で仕方なかった」
「嫌いになんて、なるはずありません!」
思わず反論する。すると、北斗さんはくすりと笑った。
顔が熱くなり、私はおたおたしながら視線を逸らす。北斗さんはそんな私に、続けて言った。
「そんなふうに、いつも新しい俺に気づかせてくれる琴子を、俺は大切にしたいと思う。ただ単純に、琴子のためになりたいと思うんだ」
それはまるで、愛の告白のよう。そう思ったら、胸がきゅうっと痛み、苦しくなった。
私たちは偽装の関係。恋心を抱いてしまったから、こんなふうに思うだけだ。
この気持ちをごまかしたくて、私は俯いたまま口を開いた。この痛みに気を取られるくらいなら、別のことを話して頭を切り替えたい。
「私、両親を喪ってから、樫江精機を継いでくれた伯父に迷惑をかけまいと、生きてきました。両親が大変だったのも知っていたから、余計な気苦労をかけたくなくて……莉緒ちゃんを甘やかしてしまっていたな、と思って。横領は悪いことです。だけど、莉緒ちゃんが誰かに依存したくなる原因をつくってしまったのは、私だったんじゃないかって」
言いながら、莉緒ちゃんが失踪した夜のことが蘇る。
『琴子ちゃんのせいだよ! 琴子ちゃんがここからいなくなったから! プレッシャーで押しつぶされそうな私を救ってくれたのは、彼だけなの!』
あの時莉緒ちゃんに言葉を返せなかったのは、その責任が私にもあると思ったからだ。
幼い頃、私は莉緒ちゃんが笑っていてくれるようにと先まわりしてしまうことが多かった。甘えられたら、できる限りそれに応えた。莉緒ちゃんが笑っていてくれないと、落ち着かなかった。
だけどそれは逆に、莉緒ちゃんが誰かに依存する原因になってしまったのではないか。莉緒ちゃんが横領してしまうほどホストに貢いでしまったのは、理性のたがが外れるほどのめりこんでしまったのは、私のせいなのではないか。
そう考えると、莉緒ちゃんが逮捕された責任は私にもある気がするのだ。
だが言いながら、やはり言わなければよかったと後悔に襲われる。こんな顔を、北斗さんに見せたくはなかった。