スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 しばらくして、涙が止まった頃。北斗さんはそっと私の頬から手を放し、ポケットからなにかを取りだした。

 彼の手が去ったテーブルの上には、三つの輪が絡み合うデザインの、大小ふたつのリングが置かれていた。
 以前ここを訪れた時に、彼と嵌め合ったものだ。

「大輔さんから聞いたよ。樫江精機が立て直したら、琴子が俺に求婚してくれるんだろう?」

 はっと顔を上げると、北斗さんは意地悪な笑みを浮かべていた。
 伯父がまさか、そんなことまで北斗さんに告げていたなんて。

 確かに、私はそう口にした。あの時は、こんな未来が訪れるなんて思ってもみなかった。
 だけど今、私たちは現実で想い合っている。そして、私たちはすでに結婚している。だから――。

「北斗さん。これからも、私と一緒にいてください」

 私はそう言って、彼への忠誠の意味を込めて――愛も込めて、彼の左手薬指に指輪を嵌める。

「ありがとう」

 北斗さんはそう言うと、私の左手薬指にもそっと指輪を嵌めてくれた。
 たった四日していなかっただけなのに、戻ってきた重みを随分と懐かしく感じる。そしてそれは、とても愛おしい。

 トクトクと甘く鳴り響く心臓の音が、やたらと心地よい。
 きっと、恋をするというのは、こういう気持ち。想い合っている相手がすでに夫だなんて、私はなんて幸せ者なのだろう。

「北斗さん、ありがとうございます」

 そう告げたが、彼はなかなか私の左手から自分の手を放してはくれない。

 なぜだろうと思っていると、北斗さんは私の左手をそのまま持ち上げ、指輪に軽く口づけた。
 それから、真剣な眼差しをこちらに向ける。

「琴子。これからもずっと、俺のそばにいてくれ。抱え込まずに、なんでも話して。できれば、もっと甘えてくれ」

 王子様のような行動に、唐突な触れ合いに、鼓動が急加速する。
 私は慌てて手を引っ込めた。それからさっと背を正し、口を開く。

「もちろんです。結婚も、仕事も、これからも頑張ります。ヴィラのオープンまでもう少しですし、お休みをいただいた分、ちゃんと返せるように働きます」

 するとなにが面白かったのか、北斗さんがくすくす笑う。

「君ほど、俺のパートナーにぴったりな女性はいないな」

 それから笑いを収め、だけれども笑顔のまま、私に右手を差し出した。

「これからも、よろしく頼むよ」

 少しドキドキしながら、私は彼の公私ともに隣に立てるパートナーでいようと、彼の手を握り返す。

 まずは、北斗さんが責任者を務めるオリオン・グラン・ヴィラ箱根が成功するよう、私も頑張ろう。
 心の中で、そう決意を新たにした。

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