スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない

7 彼とふたりで見る景色

 四月は始まりの季節だが、箱根にはまだ冷たい風が吹く。
 私は朝から、明日にグランドオープンを控えたヴィラのフロントに立ち、メディア対応に徹していた。

 オリオングループ初となる、最高級ラグジュアリーヴィラリゾート。新たな宿泊体験施設としてプレスリリース直後から大きな注目を集めていただけに、内覧会ともなれば大勢の報道陣が押し寄せる。
 広報課との入念な打ち合わせを経て今日を迎えたわけだが、新たなメディアが到着するたびに私は緊張して仕方ない。

 だが、フロントで洗練された応対を見せるクラークや手際よくメディアを案内していくベルスタッフの姿を見ていると、無事に今日を迎えられた安堵と喜びがこみ上げてくる。
 私がこうして現場に戻ってこられたのも、すべて北斗さんのおかげだ。案内を続けるスタッフたちを見ながら、私は復帰してから今日までの怒涛の日々を、思い返した。

 北斗さんが樫江精機を救ってくれた、翌日。意を決してホテルへ出社すると、上司や同僚が私を温かく迎えてくれた。

『樫江さん、本当に辞めちゃったのかと思いました~』

 川西さんはそう言って、半泣きで抱きついてきたほどだ。

『心配をかけてごめん。でもこれからは今まで以上に、頑張るから。ヴィラのクオリティ・マネージャーとしての仕事もあるから、もうしばらく迷惑をかけるかもしれないけれど、これからもよろしく』

 にこっと微笑みそう言うと、川西さんは涙を拭いながら『一生樫江さんについていきます!』と言ってくれた。

 私の留守中、ヴィラの新人スタッフの育成をホテルの皆に託していたことも、大正解だった。ホテル現場の実践を通して、スタッフ全員がめきめきと質の高い接遇力を身に着けていたのだ。

 二週間に渡るホテルでの研修を終えた後は、ヴィラに戻ってロールプレイングに励んだ。緊急時や災害時の対応も何度もトレーニングした結果、皆焦ることなく笑顔で自信に満ちた動きを見せてくれるようになった。
 さらに三月に入ってからは、週に一度のトレーニングステイを行った。北斗さんのお兄さんご家族などオリオングループ上層部に実際に宿泊していただき、頂戴したリアルな意見や新しく見えた課題を、ひとつひとつ改善してきた。

 明日のグランドオープンに向け、妥協なく最高水準のおもてなしをつくり上げてきた自負がある。だから、絶対に大丈夫。
 てきぱきと動くスタッフたちの姿にそう確信した私は、それを確かめるためにフロントを後にし、報道陣とともにリゾート内を見て回った。

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