スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 午後になり、私はスタッフとともに、メディア関係者を敷地の奥に位置する最も格調高いヴィラへと誘導した。
 ここではヴィラ内部のお披露目に加え、オリオングループ会長とヴィラの責任者である北斗さんからのメッセージ発表が予定されている。それをもって、本日のメディア内覧会は終了する手はずだ。

 深い木目と真鍮のアクセントが美しいアールデコ調の家具で統一されたリビングは、箱根の緑豊かなロケーションと見事に調和している。特に緑の芽吹き始めた今の季節は、窓外の景色との対比が本当に美しい。
 報道陣からも「ほう……」と感嘆がもれる空間の中、北斗さんは会長の隣でいつもの王子の微笑を浮かべていた。それが、今日はなんだか誇らしげに見える。

 私も、今は胸を張っていよう。ともにヴィラをつくり上げてきた人間として、彼に精一杯報えるようにと動いてきた人間として。
 私は堂々とオープンのメッセージを述べる彼を、凛として見つめた。

 内覧会は滞りなく終了し、スタッフたちがメディア関係者を出口へと誘導する。私もともに頭を下げながら、胸の内でほっと安堵していた。

 明日はいよいよグランドオープンだ。おかげさまで予約は半年先まで満杯で、現在はキャンセル待ちが続くほどの反響をいただいている。

 だが、私はこの後一か月を目途にクオリティ・マネージャーの仕事を辞する予定だ。
 オリオンレジデンスホテル東京での仕事に対する私の気持ちを汲んでくれた北斗さんが、後任への引き継ぎが完了次第、私がホテルクラークのみの現場に戻れるよう手はずを整えてくれたのだ。

 だからこそ、これから一か月の間、私はこのオリオン・グラン・ヴィラ箱根のクオリティ・マネージャーとしての仕事に、すべてを懸けるつもりだ。

 まずは、明日からのグランドオープンを成功させなければ。気合を入れ直しぴんと背筋を伸ばしていると、不意に声をかけられた。

「お疲れ様、琴子」

 振り返ると、北斗さんがいつもの優しい笑顔でそこに立っていた。

「お疲れ様です、北斗さん。先ほどのスピーチ、とても素敵でした」

『感動は、お客様の期待を上回って初めて成り立つ。このヴィラでは、皆様の期待以上の、感動の滞在をお約束します』

 そう言い切る北斗さんに、私は胸がじんと熱くなった。このヴィラの皆を信頼し、それほどのことができると確信してくれていることが嬉しかった。

「琴子を始め、ヴィラの皆が頑張ってくれたおかげでここまで来られたんだ。本当に、ありがとう」

 北斗さんがそう言った時、彼の後方からオリオングループの会長――彼の父親がこちらにやってきた。

「よくやったな、北斗。アミューズメント事業部次期部長として、一歩前進と捉えていいだろう。琴子さんも、ここまでよくスタッフを育て上げてくれた」

 満足げな笑みを向けられ、私は恐縮してしまう。だが、それは私の力じゃない。だから私は、そっと口を開いた。

「とんでもございません。スタッフ皆が協力的で、ヴィラの理念をしっかりと理解して具現化してくれたおかげです。それに――」

 私はちらりと北斗さんを見上げた。彼は不思議そうな顔をしていたが、私は彼にも笑みを向け、続けた。

「北斗さんにもたくさん支えていただきました。彼なしでは、ここまで築き上げることはできませんでした」

 一度は退職願まで出して、現場から離れようとした。それを引き止め繋いでくれたのは、北斗さんだ。

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